幸せになるために
シチューは朝、味噌汁代わりにお椀で一杯だけ食べたんだけど、一度に6皿分作れるので、当然、鍋の中にはまだまだ残っている。

いくら冷蔵庫で保管してあるとはいえ、やっぱ早めに片付けておいた方が無難だよな。

しかし、どうやって食べるかで迷ってしまって。

またパンと共に食するか、ご飯で味噌汁代わりにするか、もしくはパスタを茹でてそこにかけてみるか。

ずっと同じ食べ方だと絶対に途中で飽きると思うので、その都度変化をつけたいのだ。

かといって今からパスタを茹でるのも何かめんどくさいしな…などと元来の怠けグセが出てきてしまい、なかなか結論が出せずにいた。

我ながら平和な悩みだよな、と思わず苦笑いした所で、足元から『ヴーン』という振動が伝わって来る。


「あ」


すぐにバイブであると気付いたので、慌ててしゃがみ込み、リュックの外ポケットに入れたままだったケータイを取り出した。

ディスプレイを見て、メールではなく通話の方であるということ、そしてそのかけて来た人物が判明し、意外に思いつつ画面を操作した。


「もしもし」

『あ、比企さん?吾妻ですが』

「うん、登録してあるから分かってるよ。どうしたの?」

『聖くん、その後どうですか?』

「寝てるよー。相変わらず、すっごく気持ち良さそうに」

『そうですか』


笑い混じりに言葉を発したあと、吾妻さんは続けた。


『あ、それでケーキ屋さんなんですけど、今日の夕方行って来ました。無事に予約できましたよ』

「ホント?良かったー。お疲れ様です」


言いながら立ち上がり、オレは寝室を出てダイニングへと移動した。


「料金はおいくらだったの?」

『3500円です』

「じゃ、レシート取っておいてね。オレも後でコンビニのオードブル予約して来るけど、そんなにはかからないと思うんだ」


毎年この時期にコンビニで買い物すると、ケーキやらチキンやら、クリスマス料理のチラシを渡されて、一応目を通してから捨ててるんだけど、オレの記憶が確かならば2、3人前のオードブルの値段はだいたい2000円くらいだった。


「足りない分、後で払うからね」

『え?良いですよ別にそんな。ていうか、比企さんが場所を提供して、シチューも手作りしてくれるんでしょ?その材料費や手間賃考えたら、むしろ俺の方が払う立場じゃ……』
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