幸せになるために
「いやいや、ダメだよー」


オレはダイニングテーブル前の椅子を引き寄せ、腰掛けながら返答した。


「シチューの材料は余ったらそのままオレがもらうつもりだもん。『ここまでがクリスマスディナーで使った分』なんて計算するの面倒だし、それにオレが好きでやる事なんだから。あくまでもケーキとオードブルだけ折半にしようよ」


本当は「年上のオレが全部出すぜ!」って言えればカッコいいんだけどね…。

でも、そうしたら今度は吾妻さんが男として微妙な気持ちになるだろうし、ここは仲良く半分こ、というのが一番妥当な判断だと思う。


『……分かりました』


そんなオレの考えが伝わったようで、吾妻さんは素直に同意した。


「ま、余ったらもらうというか、先に使っちゃった、というのが正解なんだけどね」

『え?』

「シチューの材料。実は昨日、さっそく作ってみたんだ」

『あ、そうなんですか』

「単品だと高いからさ。野菜は袋詰めのやつ買って来ちゃったんだよ。だからまだまだ余ってるし、ルーも半量だけ残ってる。あ、といっても、ちゃんと小分けになってるやつだから、衛生面は心配ないからね。肉ももちろん、直前になってから新しいの用意するし」

『もう一回トライしてみたりはしないんですか?』

「んー、もう良いや。案外簡単にできるからそんな何回も練習する必要ないし、それに、消費すんのが結構大変なんだよね」


吾妻さんには見えないけど、思わず苦笑いしながら言葉を繋ぐ。


「半量でも6皿作れるからね。昨日の夕飯から食べてるんだけど、なかなか減らなくて……あ」


そこでピン!と閃いた。


「そうだ。吾妻さん、良かったらそれ食べない?味見も兼ねてさ」

『え?』


電話ができるという事は、仕事が一段落して、今はブレイクタイムなのだろう。

シチューを食するくらいの時間はあるのではないかととっさに考えた。


「ていうか、食べてくれると助かる。そうすれば一気に片付くし。あ、でも、もう夕飯済んじゃったかな?」

『いえ、まだですが…』


戸惑い気味に答えたあと、吾妻さんは問い返した。


『でも、ホントにご馳走になっても良いんですか?』

「うん。ぜひぜひ。むしろ、よろしくお願いします」
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