幸せになるために
オレの必死感漂う声音にハハ、と笑い声を上げてから、吾妻さんは『じゃ、お言葉に甘えて』とようやく誘いに応じてくれた。


『えっと…。それじゃ、そちらにお邪魔しても…?』

「うん。オレもこれから夕飯だから一緒に食べよう。温めながら待ってるね」

『了解です。では、後ほど』

「またね~」


とりあえず通話を終わらせケータイをポッケに仕舞うと、オレは立ち上がり、キッチンへと歩を進めた。

冷蔵庫からシチューの入った鍋を取り出し、ガス台に乗せ、火を着けてから、再び冷蔵庫に近付き、今度はラップに包んで冷凍保存しておいたバターロールを4個取り出す。

これでパンも一気に消費できるな。

それをレンジに入れて解凍・温めのボタンを押し、焦げ付かないようにシチューをお玉でかき回していると、ピンポーンと呼び鈴が鳴る。


「は~い」


マッハで玄関まで向かい、ドアを開けると、そこには言わずもがなで吾妻さんが立っていた。


「いらっしゃい。さ、上がって上がって」

「お邪魔します」


ダイニングテーブルまで吾妻さんを案内した後、急いでガス台の前まで戻り、再びせっせと鍋の中身をかき回す。

グツグツと煮立った所で火を止め、皿を必要数用意し、バターロールとシチューをそれぞれ盛り付けて順番にテーブルまで運んだ。


「ゴメン。皿の種類が違うけど、気にしないでね」


一人暮らしだからセットで何枚も同じ物を用意していなくて、吾妻さん用にはカレー皿、自分用には丼にシチューを入れてしまった。


「量は同じくらいになってるハズだから」

「ああ、良いですよそんな。お気になさらず」

「じゃ、食べようか」


配膳が終わり、席に着いた所でそう言葉を発した。


「はい。いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


と、促しておきながら自分は動かずに、ペンのようにグラスに立てて置いておいたスプーンを手に取り、シチューをすくって口に運ぶ吾妻さんのその一連の動きを、思わず固唾を飲んで見守ってしまった。


「あ、うまい」

「ホント!?」

「ええ。野菜がしっかり煮込まれてて、それが溶け込んでいるスープがとてもクリーミーで…」


言いながら、吾妻さんは再びスプーンを動かしシチューを口に入れ、咀嚼し、飲み込んでからコメントを続けた。


「ん、肉も柔らかい」
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