幸せになるために
まだ完全には覚醒していないらしく、寝ぼけ眼で声にも張りがないけれど、オレの姿を見つけて一生懸命ここまで歩を進めて来たのだろう。


「あ、おはよう!」


相変わらずキュートなその姿に萌え悶えつつ、その場に屈んで挨拶を返す。


「なにやってるの?」

「ん?朝ごはんの準備だよ」


実家の方角を探っていた件について、説明する必要はないだろう。


「あ、そうだ。聖くんも食べる?」


オレは突然ピン!と閃いた。

この子が触りたい物には触れるようだけど、果たして食事も大丈夫なのかどうか、パーティー前に確認しておきたい。

メニューは…。

ちょっと渋いけど、焼き鮭と目玉焼きで良いか。

そんで豆腐の味噌汁も作って…。


「ん~ん。いらない」


しかし聖くんはふるふると首を降りながらその提案を辞退した。


「ぼくね、何だかごはんを食べたいと思わないの」

「え?」

「お母さんたちといっしょにいた時はいつもおなかがぐーぐーなってたのに、一人になったらそれがピタッとやんじゃったんだ~」


聖くんは無邪気に話していたけれど、『いつもおなかが…』というくだりで、オレの胸はズキッと痛んだ。


「あ。でも、ケーキは食べるよ~?」


思わず絶句してしまったオレに向けて、聖くんは慌てて言葉を発する。


「ずっとずっと食べたかったんだもん。それを食べなくちゃいけないんだもん」


そのセリフに、今度は胸の鼓動が大きくはねあがった。

聖くんは自覚なしに口にしたようだけれど、きっと彼の本能は気付いているのだろう。

誕生日にその願いを叶えられれば、自分の魂が、本来の場所へたどり着けるのだという事を。


「……うん。食べようね」


オレは頑張って笑顔を作りながら、穏やかに聖くんに語りかけた。


「12月24日、聖くんのお誕生日に、美味しいケーキを3人で食べよう」

「あれ?」


しかし聖くんはそこで何かに気付いたように、不思議そうな声を上げる。


「ん?どうしたの?」

「何でりきお兄ちゃん、ぼくのお誕生日が、12月24日だって知ってたのかなぁ?」

「えっ」

「ぼく、そのお話はしてなかったよね」

「え、えっと、それは」


何でこの子はこんなに色んな事に頭が回るんだ!


「あ、ホラ。それも大家さんから前もって聞いてたんだよ」
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