幸せになるために
でも、母さん手作りの料理はもちろん、ケーキもとても美味しくて、その後プレゼントがもらえる事があらかじめ分かっていたし、しかも次の日から冬休みであるという事も相まって、とても楽しく、心弾む一時であった。

そのうち、おじいちゃんがいなくなり、おばあちゃんもいなくなって、寂しく思いながらも、その後も家族4人でその習慣を続けていた。

高校生くらいになると、兄ちゃんもオレも「家でパーティーなんてつまらん!」という友達が周りに増えて来て、そういう子に誘われてカラオケやファミレスでイブを過ごすようになり、数年間、家でのクリスマスパーティーは途絶えていた。

だけど、社会人になってからまた復活したんだよね。

学生のように、ちょうど冬休み期間中のイベントって訳じゃないし、その日、もしくは次の日は普通に仕事である事の方が多い。

仲間とはスケジュールが合わなくなってしまっていたし、また、イブを一緒に過ごしたい、と思うような恋人もいなかったので、大人しく家に帰っていた。

ちなみに兄ちゃんは茉莉亜さんはもちろん、その前に付き合ってた人とも「ゆっくりできないし、わざわざ仕事のある日に出掛ける必要はない」という考えの元、いつも直前の土日に会って早めのクリスマスパーティーを済ませ、イブの日はオレ同様、家でのんびりと過ごしていた。

イブが土曜日に重なった年だけは当日に出掛けていたけど。

そんなオレ達に気を使ってくれたのか、母さんは再びイブの日に、豪華な夕飯とケーキを用意して、帰りを待っていてくれるようになったのだ。

そんなこんなでここ数年、比企家ではクリスマスは家族と共に自宅で過ごす日、となっていた。

ただ、今年はオレが独立しちゃったし、兄ちゃんはその前後家にいない。

自分の好きなように過ごしてくれて良いのに、常に家族を気にかけてくれている母さんは、オレがどうするつもりなのか確認しておかないと落ち着かないようだ。

しかしその日は……。


「ごめん。今年は帰れないや」


どうしても外せない、大切な約束がある。


『あら、そうなの?』

「うん。ちょっとバタバタしてて…」

『ああ、そういえば翔が言ってたわ。何だか色々やること目白押しなんですって?』
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