幸せになるために
『じゃあ、イブの日はお父さんと二人だけで外食でもしようかしら』

「あ、そうだね。そうしなよ」


答えてから、ふと気になる。


「でも、今から予約できるような所あるかな?」

『そんな、いかにもクリスマスデートで使われるような、若者向けのお店に行く訳じゃないもの。大丈夫よ』


母さんはコロコロと陽気に笑った。


『魚太郎さんで、お任せのコース料理でも食べてこようかしら、なんて思ってるんだけど』

「あー、あそこね~」


『うおたろう』とは実家から徒歩10分くらいの場所にある、職人さんがカウンターの中でお客さんと向き合いながら腕を奮う、昔ながらのスタイルのお寿司屋さんである。

お寿司だけではなく、それを中心としたコース料理も事前予約で作ってくれるのだ。

味は抜群だしとても良心的な価格で、何かお祝い事がある時には必ずそこを利用させてもらっていた。

大好きなお店だけど、確かに、クリスマスにあえて来店する人は少ないかもしれない。


『そうと決まれば、さっそく明日予約しなくっちゃ』


はしゃぐ母さんの声を耳にして、オレもとても心が弾んだ。


「楽しんで来てね」


毎日せっせと家族の為に、働いてくれているんだから。

たまには母さんの好きなように時間を使って欲しい。


「とりあえず、お正月休みには必ず帰るから。直前になったらまた連絡する」

『分かったわ。じゃあ、もう切るわね』

「うん」

『無理し過ぎないように、仕事頑張ってね』

「ありがと。じゃ、またね」

『はい、お休みなさい』

「おやすみ~」


通話を終え、ケータイをジャケットのポッケに仕舞う。


…歩きながらの電話なんて、ちょっとお行儀が悪かったかな。
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