幸せになるために
その存在に気付いてから2週間ほど経過したけれど、大体聖くんの生活スタイルが掴めて来た。

思った通り、彼は基本寝ている事の方が多く、3、4日に一回のペースで目が覚めるようだ。

そして部屋の中をウロウロして、何か興味の惹かれる物があったらそれを使い、気が済むまで遊んで、疲れたり飽きたりしたらまた寝る、の繰り返しだったらしい。


「でもね、おきてもだ~れもいないし何もない時がいっぱいあってね」


ある朝、4日ぶりに布団から抜け出して来た聖くんをソファーに座らせ、例のチビッコ向け番組を見せながら今までどうやって過ごしていたのか聞き込み調査をするオレに、彼は眉尻を下げつつ解説した。


「つまらないから、そういう時は遊ばないで、そのまままた寝ちゃったんだ~」

「ああ…。みんな、すぐに引っ越しちゃったみたいだからね」


その原因がズバリ聖くんにあるだなんて事は、もちろん口が裂けても言わない。

今はこのペースで目覚めているけれど、誰も居住者がいなかった時は、もしかしたらもっと長い期間、眠りに就いていたのかもしれない。

何週間、下手したら何ヶ月も。

聖くん自身は自分がどれぐらい寝ていたかなんて分からないだろうけど。

そして、内見や引っ越しで誰かが部屋に入って来た際に、気配や物音に気付いて目が覚め、嬉しくなって色々とアプローチを試みてみるんだけれど、結局気付いてもらえない、と。

でも聖くんはその点は深く考えず、新しい同居人を興味津々で観察しながら、マイペースに遊び続けていたのだろう。

すぐにまた、一人取り残されるであろう事を心の奥で感じながら…。

だからせめてオレだけは、少しでも長く、聖くんの傍に居てあげたいと思った。

もちろん、何も食べない訳にはいかないから食材の買い出しくらいはしているけれど、仕事帰りについでに駅向こうのスーパーに寄って、手早く済ませて帰る。

それ以外の時間は、聖くんがいつ目覚めても良いように、アパートで待機しているのだった。

当然、イブが過ぎるまで、休日には何も予定は入れないつもりだ。


「あ、比企さん。前に言ってたカラオケ、いつ頃にしましょうか?」


早番の仕事上がりの時に、休憩室で渡辺さんにそう問い掛けられたけれど、「年末年始は皆それぞれ忙しいだろうからさ、年が明けてしばらく経ってからにしようか」と提案した。
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