幸せになるために
そう言いながら、オレは自分の席に戻り、吾妻さんが動く前にさっさとカップを手にして口に運んだ。


「ん、まだそんなに冷めてないよ。おいしー」

「…そうですか?」

「うん。あ、こっちもいただきます」


そして中央に置かれているお菓子に手を伸ばす。

一つ一つ透明のビニールで包装されている四角い焼き菓子で、パッと見、プレーンとマーブルとチョコ味と抹茶味と思われる色合いの物があった。

まずはプレーンから食してみる。


「んお~。すっごく美味しいっ。いかにも『高級店の、贈り物に喜ばれるスイーツ』って感じ!」

「ホントですか?」

「うん、マジマジ。あ、もう一個もらっても良い?」

「一個と言わず、いくらでも召し上がって下さい」


吾妻さんは楽しそうに笑いながら、お菓子の乗った皿をオレの方に押し出して来た。


「あ、いや。あんまり調子こいて食べると、ご飯が入らなくなっちゃうから…」


とりあえず、夕飯にありつくまでの繋ぎとしていただこうかなと。


「ああ、比企さんはちゃんと、食事でお腹を満たすタイプなんですね」

「うん」

「じゃあ、お土産として持ち帰って下さい。後でこれ、袋に詰めてお渡ししますから」

「え?こ、ここにあるの全部?」


それぞれの味が2個ずつ用意されていて、今オレが1個手に持っているので、皿には7個残っている。


「はい」

「え~。良いよそんな気を使ってくれなくても。吾妻さんの分がなくなっちゃうじゃん」

「いやいや、これでもまだ半分以下なんですよ。全部で20個も入ってるんですから」


吾妻さんは苦笑しながら解説した。


「有難い事なんですけど、一人暮らしの独身男性が2週間の賞味期限内に片付けるのはなかなか厳しい量ですよね。しかも勤め人じゃないんだから、同僚にお裾分け、って訳にもいかないし」

「ん~、まぁね…」

「実家に持って行くなんてのは問題外ですしね」

すっかり通常運転に戻ったと思っていた吾妻さんが再び、冷たい口調でそう言い放ったので、オレはお菓子にかじりついたまま固まってしまった。


「あ、すみません。つい…」


思わず口を突いて出てしまったようで、吾妻さんは自分自身戸惑いながら謝罪する。
< 150 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop