幸せになるために
吾妻さんの苦しみは充分理解できたし、その決意を翻させるつもりは毛頭ないのだけれど、かといって「そうだそうだ!」なんて積極的に後押しするのも何だかためらわれて、思わず言葉に詰まってしまった。
「……すみません。次から次へと、反応に困るような、不愉快な話をしてしまって」
そんなオレの葛藤を見抜いたようで、吾妻さんは自嘲気味な笑みを浮かべながら謝罪した。
「幸せに生きて来た比企さんが、俺のスタンスを全面的に支持するのは難しいだろうし、そして、そんな必要もないですから」
マグカップの取っ手部分を右手の人差し指と中指で弄び、視線もそこに向けながら、吾妻さんは主張を続ける。
「とにかく俺は、一生結婚はしないだろうなって、思います。籍を入れたら大抵の女性はその先、妊娠と出産を望むでしょうからね。『母親』になった女性と、一つ屋根の下で暮らすのは怖いから……」
その穏やかな語り口からは想像もできなかった、ヘビー過ぎる告白に、オレはさらに二の句が告げなくなってしまった。
「そして、そのトラウマを克服させてくれるような、心から愛せる女性に、自分が巡り会えるとも思えないんです」
吾妻さんは顔を上げ、オレに視線を合わせると改めて宣言した。
「だからきっと俺は一生、一人で生きて行くと思います」
その時、胸の中に芽生えたある思いが、喉元までせりあがって来た。
だけどそのラインを越える事はなかった。
言葉に変化して、外部に出力される事はなかった。
「よし。もうこの話は、ここで終わり!」
吾妻さんは、それまでとはうってかわった陽気な声でそう言いながら、テーブルを両手でパンッと叩いた。
「ここまで聞いて下さって、ありがとうございました。色々吐き出したらだいぶ気持ちが楽になりましたよ」
相変わらずオレは、何も気のきいた言葉を返せずに、ただぼんやりと吾妻さんを見つめている。
「あ。今、お土産用の袋持って来ますね。と言っても、コンビニのビニール袋しかないですけど」
おそらくそんなオレに気持ちを切り替える時間を与える為に、吾妻さんは勢い良く立ち上がり、キッチンへと向かった。
つくづくオレって……。
この上ない自己嫌悪に陥りながら、吾妻さんに気付かれないようこっそりと、深く、長い、ため息を吐く。
「……すみません。次から次へと、反応に困るような、不愉快な話をしてしまって」
そんなオレの葛藤を見抜いたようで、吾妻さんは自嘲気味な笑みを浮かべながら謝罪した。
「幸せに生きて来た比企さんが、俺のスタンスを全面的に支持するのは難しいだろうし、そして、そんな必要もないですから」
マグカップの取っ手部分を右手の人差し指と中指で弄び、視線もそこに向けながら、吾妻さんは主張を続ける。
「とにかく俺は、一生結婚はしないだろうなって、思います。籍を入れたら大抵の女性はその先、妊娠と出産を望むでしょうからね。『母親』になった女性と、一つ屋根の下で暮らすのは怖いから……」
その穏やかな語り口からは想像もできなかった、ヘビー過ぎる告白に、オレはさらに二の句が告げなくなってしまった。
「そして、そのトラウマを克服させてくれるような、心から愛せる女性に、自分が巡り会えるとも思えないんです」
吾妻さんは顔を上げ、オレに視線を合わせると改めて宣言した。
「だからきっと俺は一生、一人で生きて行くと思います」
その時、胸の中に芽生えたある思いが、喉元までせりあがって来た。
だけどそのラインを越える事はなかった。
言葉に変化して、外部に出力される事はなかった。
「よし。もうこの話は、ここで終わり!」
吾妻さんは、それまでとはうってかわった陽気な声でそう言いながら、テーブルを両手でパンッと叩いた。
「ここまで聞いて下さって、ありがとうございました。色々吐き出したらだいぶ気持ちが楽になりましたよ」
相変わらずオレは、何も気のきいた言葉を返せずに、ただぼんやりと吾妻さんを見つめている。
「あ。今、お土産用の袋持って来ますね。と言っても、コンビニのビニール袋しかないですけど」
おそらくそんなオレに気持ちを切り替える時間を与える為に、吾妻さんは勢い良く立ち上がり、キッチンへと向かった。
つくづくオレって……。
この上ない自己嫌悪に陥りながら、吾妻さんに気付かれないようこっそりと、深く、長い、ため息を吐く。