幸せになるために
「あ…。うそ。もうこんな時間?」


枕元の時計に視線を走らせたオレは、思わず驚きの声を発した。

今日は休館日の金曜日。

なので、たまには気が済むまで寝てみようと、目覚ましをセットしていなかったんだけど、ふと意識が覚醒し、時間を確認した所で心底仰天した。


「まさか11時過ぎまで寝ちゃうなんて…」


ノロノロと起き上がりつつ、改めて驚きを口にする。

隣の聖くんを見てみると、相変わらず安眠を貪っていた。

そろそろ目が覚めても良い頃なんだけどなぁ…。

ちょっと残念に思いつつ、とりあえず自分は1日の活動を開始する事にする。

掛け布団の上に乗せておいたパーカーを羽織り、まずは洗面所へ。

うがいと洗顔を済ませた後再び寝室へと戻り、ストーブを手に取ってリビングへと向かった。

最近はストーブを寝室に持ち込み、眠りに落ちる直前まで点けておく事にしている。

そうすれば部屋がまだ暖かいうちに夢の世界へ旅立つ事ができるもんね。

まぁホントは、エアコンがあれば言うことなしなんだけど。

だけどストーブ一個で何とか生活できているし、著しく不便っていう訳ではないから、とりあえず今年の冬はこれで乗り切ろうと思う。

そう考えながら、手にしていたそれをリビングのいつもの定位置に置いた所でふと気付いた。

そういえば、いつもはまずストーブの電源を入れてから動き始めるのに、今日は自然に顔を洗いに行っちゃったな。

それだけ室内が暖かいって事なんだろう。

考えてみたらもうお昼近くで、大分日が高くなってるもんね。

太陽の光は遮らないけど、外から部屋の中を確認するのは難しい、という技術が施されているレースのカーテンを吊るしているので、天気は一目瞭然。


「夕方まで点けなくても良いかな」


オレはそう呟きながらキッチンへと向かった。

まずは湯を沸かそうと、カウンター上に置いておいたやかんに手を伸ばした所で、その手前にあったビニール袋が視界に入り、思わずドキリとする。

昨夜、吾妻さんからお土産として渡された焼き菓子。

あの後、吾妻さんは宣言通り自分の過去に関する話はせずに、議題を聖くんのお誕生日パーティーに変えた。

昨日の時点で5日後に迫っていたので、この機会に最終確認をしておこう、という流れになったのである。
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