幸せになるために
聖くんとコミュニケーションが取れるのは、きっとあと1日…。

そう考え、この上ない寂しさと切なさに押し潰されそうになったけれど、『いやいや、今からへこたれててどうする!』と自分自身を叱咤した。

明るく楽しいお誕生日会にして、気持ち良くあの子を送り出してやらなくちゃいけないんだから。

そこに至るまでに、徐々にモチベーションを上げて行かなければ。

それにはまず、日常生活の中の自分がやるべき事を、きちんとこなして行く事が大切であると思う。

塞ぎこんでいる場合じゃないぞ。

オレはそう決意を新たにし、さっそく行動を開始した。

本棚に近付き、絵本を紙袋の中に戻すと、テーブルの上のハサミと荷造り紐を手にしてキッチンへと移動し、所定の場所に片付ける。

そこでふと、喉の渇きを感じたので、冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いだ。


「あ、そうだ。ついでにおやつの時間にしちゃおうかな…」


呟きながら、焼き菓子が入った袋を手にダイニングテーブルまで移動した所で、昨日からずっとそこに置きっぱなしにしておいたケータイが震える。


「あれ?」


袋とコップを急いで置いてケータイを手に取り、ディスプレイの表示を見た瞬間、思わず声が出た。


「…はい」

『あ、たすくか?』


電話の相手は兄ちゃんだった。


『今、話せるか?』

「うん。オレは休みだから良いけど、兄ちゃんの方こそ大丈夫なの?仕事は?」

『3時の休憩中だよ。何だかすげーハラ減っちゃってさ、たこ焼き食ってるんだ』


遅ればせながら気付いたけれど、確かに兄ちゃんは口に食物が入っている事を証明するような、くぐもった声で応答している。

兄ちゃん達が勤務する会計事務所は10時と15時に、15分間の休憩時間を設けている。

内勤の女性は毎日同じ時間にお茶しているようだけれど、外回りの多い男性陣はそれは中々難しい。

なので臨機応変に、大体その時間を目安として、自分のタイミングで休んで良い事になっているのだ。

訪問先でお茶とお菓子をご馳走になった場合は、それを休憩と考えて、改めて休んだりはしないようだけれど。

また、日によってはその時間帯事務所に戻れる事もあるので、当然そこでのティータイム。
< 170 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop