幸せになるために
それ以外では、たいてい皆車で行動しているので、移動中にファストフード店やイートインコーナーのあるコンビニ、スーパーのフードコート等に寄って一休みしてから次の訪問先に向かう、という流れになる時もあるらしい。

今日はズバリ、兄ちゃんはそのパターンだったようだ。


『明日から新婚旅行だろ?朝早いし、今夜は超早く布団に入らなくちゃいけないからさ。話すのはこのタイミングしかないと思って』

「なにを?」

『えっと、その…。この前は、ゴメンな』


兄ちゃんはとても神妙な口調で続けた。


『つくづく俺浮かれまくってて、すげー無神経なこと言っちまったよなーと思ってさ』

「え?この前って…。オレの恋愛事情についてあれこれ言ったこと?」

『うん…』

「まだそんなの気にしてたの~?」


オレは思わず心底呆れたような声を発してしまった。


「こっちはもうとっくに忘れ去ってたよ」


正直、それどころじゃなかったもんね…。


『え!?ちょ、何だよそれぇー』


兄ちゃんも負けじと声を張り上げた。


『俺、あれからずっと一人、悶々と悩み続けていたっていうのに~』

「え。うそ」


兄ちゃんてホント、普段の言動からは予想がつかないくらい、意外と繊細な所があるんだよね。

小さい頃から多々感じていたことだ。


「……ていうか、オレがキレたりしたからだよね」


それが分かっていながら、あんな言い方しちゃうなんて…。


「こっちこそ、ごめんね?」


オレの方こそ謝る立場だったじゃないか。


『え?あ、いや…』

「あの時はちょっと色々あってさ。メンタルやられてて…。完全な八つ当たりだったんだ」

『…そっか』

「だから兄ちゃんは気にしないで。ホント、申し訳ない」

『いや。弟が苦しんでるのに、それを察してやれなかった俺が悪い!』


兄ちゃんはきっぱりと言い切った。


『それでどうなんだ?今はもう、その悩みは解決したのか?』

「…うん。大丈夫だよ」


まぁ、まだ決着はついていないけど。

でも、方向性は見えているから、あの時の気持ちがそのまま継続してる訳じゃないもんね。

だからこの答えは嘘ではない。

『そっか、良かった~』


心底安堵したようなその声を聞いた瞬間、オレはふいに、遠い日の記憶が甦った。
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