幸せになるために
真っ黒なストレートのロングヘアーを、右側に寄せて一つにまとめている、年の頃二十歳前後の若い女性。

そう言えば、こっちに引っ越して来てから約2ヶ月、勤務の日は必ずこのコンビニでお昼を買っているけれど、あの時間帯に女性を見かけたのはあの日だけだったような気がする。

もちろん、レジは二つあるし、裏方の仕事もあるんだろうから、ただ単に気付かなかっただけかもしれないけどさ。

コンビニでバイトをした事がないのでどういう風にシフトを定めるのか良く分からない。

基本は夕方の勤務なんだけど、誰かが休んだり、忙しい事が予測できる時には急遽、ヘルプに入ったりするのかな?


「お待たせいたしましたー」


なんて、自分には全く関係のない、人様の勤務体制についてあれこれ考察している間に、白い大きなビニール袋を手に提げて女性が戻って来た。


「念のため、ご一緒にご確認、よろしいですか?」

「あ、はい」


オレの頭の中が見える訳はないのに、ちょっと後ろめたい思いを抱きつつ返答し、袋の口を開いた女性と共に中身に視線を向ける。


「オードブルAをお一つ。以上で間違いないでしょうか?」

「ええ。大丈夫です」


オレが頷くと、女性は袋の口を手早くクルクルとまとめて右手で持ち上げ、左手を底に添えてオレの方に差し出して来た。


「ありがとうございました。お気をつけてお持ち帰り下さい」

「はいどうも」


袋を受け取った所で、雑誌コーナーの前で棚の整理をしていた中年の男性店員が「お~い。伊藤さ~ん!」と声を張り上げる。


「はい」
「はい」


すると、今までオレの相手をしていた女性と、弁当コーナーの前に居た別の女性店員が同時に返事をする。


「あ、えっと、麗奈ちゃんの方な!ここ、変わってくれるか?」

「はーい」


女性は元気良く返事をすると、急いでカウンターを出て雑誌コーナーへと向かった。


「今のうちに休憩行って来ちまうから。悪いな」

「ああ、大丈夫ですよ店長。時間までごゆっくり」


店長と入れ違いに棚の前に屈み込んだ伊藤(れ)さんは、「あ、靴!」と突然叫んだ。


「え?」

「スニーカーの紐がほどけてますよ、店長。危ないからすぐに結んじゃった方が良いですよー」
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