幸せになるために
「あ、ホントだ。ありがとな」


雑誌コーナーから見て突き当たりに位置する、イートインスペースに立ち寄り、テーブルに袋を置いて口をしっかりと結び直していたオレは、思わずそのやり取りをぼんやりと眺めてしまった。

明るくてしっかりしていて、感じの良い店員さんだな~という感想を抱いたのと同時に、何故か懐かしさが込み上げて来て。

彼女としっかり対峙したのは今日でまだ2回目の筈なのに、どうしてそんな感情が湧き起こったのか、自分でも謎だった。

しかし、新たに来たお客さんがドアを開け、再び伊藤さんと、靴紐と格闘中の店長の「いらっしゃいませー」の声が響いた瞬間ハッと我に返る。

ここを利用するような商品は買っていないのに、いつまでも立ち尽くしていたら邪魔だよな。

それに、オレにはこの後重大な任務が控えているんだから。

早いとこ帰らなければ。

オレは袋を手にその場から足早に歩き出し、コンビニを後にした。

アパートに到着し、うがいと手洗いをしてから聖くんの様子をチェックしに寝室へ。

案の定彼は金曜日以降一度も目を覚まさず、そして今現在も夢の中であった。

……とりあえず、まだ寝ていてもらった方が良いかな。

買って来た物をリビングのテーブルに並べたりシチューを温めたりしているうちに、ケーキを持った吾妻さんが来る時間になるだろうから、その時に二人で起こそう。

その方が、サプライズ感がより増すもんね。

1人頷きながら、オレは早速行動を開始する事にした。

リュックを畳の上に置き、いつものようにジャケットを脱いでハンガーにかけ、洋服ダンスの取っ手に吊るし、もう片方の取っ手に下がっているパーカーを羽織ろうとした所でハタと気が付く。

……そういやこのパーカー、もう一週間以上着てるんだよな。

室内着だし、直接肌に触れる訳じゃないから大して汚れやしないだろうと、週一くらいのペースで洗濯してるんだけど、さすがにそろそろ洗わないとマズイだろうか。

自分では分からないけど、色んな匂いが染み付いてるかもしれないし。

それにせっかくのお誕生日パーティーなんだから、オシャレじゃなくてもキレイなおべべで臨みたいよな。

オレはそう判断し、パーカーはそのままにして洋服ダンスの引き出しを開けて、しばし悩んだあと、緑のカーディガンを手に取った。
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