幸せになるために
「そ、そっか」

「……比企さん」


そこで吾妻さんが、穏やかな口調で言葉を挟む。


「そういう事ならそろそろ、本日のメインイベントに突入しましょうか」

「う、うん」


オレは自分でも分かるくらいひきつった笑顔を浮かべると、ノロノロと立ち上がった。

キッチンへと移動し、冷蔵庫を開け、ケーキの箱を取り出すと、リビングに向かってゆっくりと歩き出す。

『ケーキを落とさないように、慎重に動いているんですよー』という体を装って。

そんなの無駄なあがきにも程があるんだけど。

案の定、トータルほんの数10秒で、オレはリビングへと戻って来てしまった。

その間に吾妻さんがテーブル上の物をちょっとずつずらし、聖くんの席の前にケーキを置くスペースを作っておいてくれた。

オレは観念し、二人に背を向けながらダイニングテーブルで箱の中からケーキを取り出すと、精一杯テンションを上げて「ジャーン!」と言いつつ振り向く。


「うわぁー!」


出現したケーキに、聖くんは本日何度目になるか分からない歓声を上げた。


「おいしそう~!」


丸い、生クリームのデコレーションケーキ。

中央に「こうき君5才のお誕生日おめでとう!&メリークリスマス!」と書かれているチョコレートのプレートと、砂糖菓子で出来たサンタさんとトナカイが乗っていて、それを取り囲むように、艶々とした真っ赤なイチゴが等間隔で並べられている。

聖くんがずっとずっと待ちわびていた、自分の生誕記念日を祝うケーキ。


「もちろん、これもあるよ~」


オレはケーキを置いたあと、再びダイニングテーブルに向き直り、小さいビニール袋に入れられて箱の側面に貼り付けられていたそれを、ペリ、と剥がして高く掲げた。


「聖くんが一つ大人になるための、5本のろうそく!」


感激し過ぎて、どうやら聖くんは言葉にならないようだ。

キラキラウルウルとした瞳で、ただただオレを見上げている。


「あ。じゃあ、吾妻さんはこれを立ててもらってて良いかな?オレ、ライターと包丁持って来るから」

「了解です」


吾妻さんに袋を渡し、オレは言葉通り、必要なアイテムを揃えるために再びキッチンへと向かった。
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