幸せになるために
一人、この流れに乗らない訳にはいかない。

吾妻さんと聖くんのほのぼのとしたやり取りを聞きながら、オレは手の震えを気合いで押さえ込み、覚悟を決めてケーキを食べ始めた。


「わ。ホントだ。超おいしい!」


二人の会話に合流するべく、オレはテンションを上げて言葉を発する。


「生クリームに、『控え目』じゃない、ケーキらしいしっかりとした甘さがあって、なおかつコクもあって」

「かといってしつこいっていう感じではないんですよね。口当たりが上品というか」

「さすが人気のケーキ屋さんだよねー。食べられて嬉しいなー」


そんな風にオレ達が、にわかグルメ評論家になっている間に、聖くんはフォークを皿の上に置き、チョコレートのプレートを手に取っていた。


「んしょっ」


そして、小さい手に一生懸命力を込めて、チョコレートをペキッと割り出す。


「あ、そのままだと食べづらかった?お兄ちゃんが…」


『割ってあげようか?』と言おうとした所で聖くんは立ち上がり、オレの傍までトコトコと歩いて来た。


「じょうずに三つにできなかった~」


眉尻を下げてそう言いながら、聖くんはチョコレートをオレの皿の上に乗せる。


「……え?」

「はい、りきお兄ちゃんも~」


オレがとっさに反応できず、ただ目の前の皿をぼーっと眺めている間に、聖くんは素早く自分の席に戻り、今度はそこから腕を伸ばして、吾妻さんの皿の上にも同じようにチョコレートを置いた。


「みんなでなかよくたべよう?」


その言葉にハッとして、聖くんに視線を向ければ、明らかにオレと吾妻さんに配った物よりも小さいチョコレートのカケラを皿から掴み取り、パクっと頬張った所だった。


「んふふ~。これもおいし~い」


舌でそのチョコを転がしながら、聖くんは幸せそうに微笑む。


ああ……。


本当に、この子はなんて……。


「ふ~、おなかいっぱい。ごちそうさまでした」

「えっ」


感動にうち震えていたオレは、突然、その時を強制終了させられた。


「こ、聖くん、ケーキ、食べ終わっちゃったの?」

「うん。ほら」


無邪気に皿を指し示しているけれど、そこには最初の形のままのケーキが威風堂々と鎮座している。
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