幸せになるために
体同様、上げていた頭をコテン、とラグの上に横たえて、聖くんはちょっと舌たらずな口調で返答した。
「だって、三太くんは、すごく強い子だから」
きっと眠気がピークに近付いて来たのだろう。
「トナカイさんにいじわるなことを言われても、ぜんぜん気にしなかったし、暗くて寒い夜空の中を、ソリで元気いっぱいに走り抜けてたし」
「うん。ホント、頑張り屋さんだよね」
本棚の前から聖くんの傍へと移動しつつ会話を交わす。
「だからぼくもみならわなくっちゃ」
しかし、吾妻さんの右側、聖くんの目の前に腰を落としたオレは、次の瞬間またもやフリーズする事となった。
「今度お兄ちゃんに会ったら『らんぼうなことはしちゃダメ!』って、ちゃんと、勇気をだして言わなくちゃ」
「………え?」
固まってしまったオレの代わりに、吾妻さんは困惑を隠しきれない声音で聞き返す。
「おにい…ちゃん?」
「うん。ここでいっしょに住んでいた、かずゆきお兄ちゃん」
予想通りの回答に、吾妻さんも言葉を失った。
「お兄ちゃん、さいしょはとってもやさしかったんだけどな~…。トランプとか、ボール遊びとかしてくれて。だけど、だんだん恐くなってきちゃって…」
いかにも眠そうに、シパシパと瞬きを繰り返しながら、聖くんはポツリポツリと語り出す。
「それでお母さんのこと、たたくようになっちゃってね。ぼく、男の子だから、助けてあげなくちゃいけなかったのに……」
そこで聖くんはシュン、となった。
「弱虫だから、お兄ちゃんに『やめて』って、言えなかったの」
「そんなっ…」
できる事なら今すぐ耳を塞いでしまいたい。
「そしたらお兄ちゃん、ぼくのこともたたくようになってね…。でも、きっとお兄ちゃんも、そんな自分はキライだったと思うんだ。ほんとうはそんなこと、したくなかったはずなの」
だけどこれは聖くんのこの世での最後の言葉。
「だって、セーターを買ってくれた時、お兄ちゃん、昔みたいなやさしい笑顔だったもん」
だからこころゆくまで、その胸の内を吐き出させてあげなければ。
「だからね、一つ大人になったぼくが、今度こそ、お兄ちゃんを止めてあげなくちゃ。ほんとうのやさしいお兄ちゃんに、戻してあげなくちゃ」
「だって、三太くんは、すごく強い子だから」
きっと眠気がピークに近付いて来たのだろう。
「トナカイさんにいじわるなことを言われても、ぜんぜん気にしなかったし、暗くて寒い夜空の中を、ソリで元気いっぱいに走り抜けてたし」
「うん。ホント、頑張り屋さんだよね」
本棚の前から聖くんの傍へと移動しつつ会話を交わす。
「だからぼくもみならわなくっちゃ」
しかし、吾妻さんの右側、聖くんの目の前に腰を落としたオレは、次の瞬間またもやフリーズする事となった。
「今度お兄ちゃんに会ったら『らんぼうなことはしちゃダメ!』って、ちゃんと、勇気をだして言わなくちゃ」
「………え?」
固まってしまったオレの代わりに、吾妻さんは困惑を隠しきれない声音で聞き返す。
「おにい…ちゃん?」
「うん。ここでいっしょに住んでいた、かずゆきお兄ちゃん」
予想通りの回答に、吾妻さんも言葉を失った。
「お兄ちゃん、さいしょはとってもやさしかったんだけどな~…。トランプとか、ボール遊びとかしてくれて。だけど、だんだん恐くなってきちゃって…」
いかにも眠そうに、シパシパと瞬きを繰り返しながら、聖くんはポツリポツリと語り出す。
「それでお母さんのこと、たたくようになっちゃってね。ぼく、男の子だから、助けてあげなくちゃいけなかったのに……」
そこで聖くんはシュン、となった。
「弱虫だから、お兄ちゃんに『やめて』って、言えなかったの」
「そんなっ…」
できる事なら今すぐ耳を塞いでしまいたい。
「そしたらお兄ちゃん、ぼくのこともたたくようになってね…。でも、きっとお兄ちゃんも、そんな自分はキライだったと思うんだ。ほんとうはそんなこと、したくなかったはずなの」
だけどこれは聖くんのこの世での最後の言葉。
「だって、セーターを買ってくれた時、お兄ちゃん、昔みたいなやさしい笑顔だったもん」
だからこころゆくまで、その胸の内を吐き出させてあげなければ。
「だからね、一つ大人になったぼくが、今度こそ、お兄ちゃんを止めてあげなくちゃ。ほんとうのやさしいお兄ちゃんに、戻してあげなくちゃ」