幸せになるために
「弱虫なんかじゃ、ないじゃないか…」


お腹に力を入れて、震える呼吸を整えて、オレは精一杯笑顔を浮かべ、言葉を発した。


「聖くんはもうとっくに、世界一優しくて、強い男の子になってるよ」

「…ほんとぉ~?」

「うん!」

「そうだよ。聖くんくらい強い人、大人だってなかなかいないよ」


横から吾妻さんが、力強く同意する。


「んふ…」


照れくさそうに微笑んだあと、聖くんはゆっくりと瞼を閉じた。

すでに目を開けているのは限界だったのだろう。


「そ、それじゃあ、お兄ちゃん、絵本読むよ!」


オレは急いで表紙を開いた。


「『三太くんは1日サンタ』…」


そこで堪えきれずに、オレは「うっ」と嗚咽を漏らしてしまう。


「今日は、クリスマスイブ…。三太くんはケーキとプレゼントを楽しみにしながら、お庭で飼い犬のポチと、遊んでいました…」


視界もみるみる滲んで来た。


「『う~んう~ん』すると、どうした、ことでしょう。垣根の向こうから、何だか苦しそうな声がしますっ」


こんなに変な抑揚をつけて朗読してしまったら、もう、オレが泣いている事は聖くんにはバレバレかもしれない。


「……がんばって、お兄ちゃん」


すると目を閉じたまま、聖くんは優しく囁いた。


「ぼくがねむるまで、さんたくん、がんばって読んで欲しいの…」

「……うん」


オレは鼻をすすり上げ、涙をカーディガンの袖で拭い去ってから、力強く頷く。


「分かった!お兄ちゃん、頑張るよ!」


自分自身に活を入れて朗読を再開した。


「『あれ?お隣のおじいちゃん、どうしたの?』『あ、三太くん。実は、足首をひねってしまって』『え~!たいへんだ~』おじいちゃんは一人暮らし。三太くんはお家の中から救急箱を取って来ると、慌ててお隣さんへと駆けて行きました」

「さんたくんはやさしいな~」

「そうだね。思いやりのある、良い子だね」


オレを読み聞かせに集中させる為か、吾妻さんが素早く聖くんの感想に反応してくれている。

聖くんの励ましの言葉、吾妻さんの心遣いにより、泣きの発作はだいぶ治まり、オレはいつもの調子を徐々に取り戻しつつあった。


……良かった。
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