幸せになるために
今、オレがやるべき事は、聖くんに三太くんの物語を語ってあげる事だから。

楽しい気持ちのまま、天国に送ってあげる事だから……。

自分の持てる力をすべて出し切って、その任務を遂行しよう。


「縁側に腰かけたおじいちゃんにしっぷを貼り、三太くんはホッと一安心したのですが、なぜかおじいちゃんはさらに困ったように言いました。『う~ん。う~ん。どうしようどうしよう』」

「……今日はありがとう。たすくお兄ちゃん、りきお兄ちゃん…」


すると突然聖くんは、オレの声を妨げないような声量、タイミングで、ポツリと言葉を紡ぎ始めた。


「しゅわしゅわするジュース、おいしかった。たすくお兄ちゃんが作ってくれたシチューもおいしかった」

「……『おじいちゃんどうしたの?』『実はね、三太くん…』するとおじいちゃんはとてもびっくりするようなことを言いました」


一瞬迷ったけれど、オレはそのまま朗読を続ける。


「『うそ!おじいちゃん、サンタさんだったの~!?』『そうなんだよ。この街を担当している、正真正銘の、サンタクロースなんだよ』」

「りきお兄ちゃんがお皿に乗せてくれたフライドチキンもソーセージもポテトも、みんなみ~んなおいしかった…」


最初は、再び溢れ出した涙が、瞳に届く蛍光灯の光を、乱反射させているのかと思った。


「5ほん、ろうそくの立ったケーキをたべさせてくれて、すっごくすっごくうれしかった」


だけどすぐに、そうではない事に気が付く。


「これでぼく、やっと、5才になれた…」


聖くんの存在そのものが、キラキラと光り輝いていたのだった。


「ほんとうに、ありがとう…」


そして、聖くんが微笑みながらそう呟いた瞬間、体全体から放たれていた光彩が、一際大きく、鮮やかになり……。

一瞬目を瞑ってしまい、慌てて開いた時には、もう、聖くんの姿はそこにはなかった。

初めてオレの前に現れた時と同じように、まるで奇術のように唐突に、彼はこの部屋から去って行ったのだった。


「あ…」


オレは思わず本を投げ出し、聖くんが横たわっていた場所に両手を着く。

ほんのり温かく感じるのは、聖くんが間違いなくそこに居た証なのか、それともまだ彼と繋がっていたい、オレの願望なのか。
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