幸せになるために
「実家に顔出して来ようと思って。大掃除とお正月の飾り付けはオレが帰る頃にはもう終わってるだろうけど、おせち料理の材料とお酒の買い出しがあるから。かさばるし重いし、男手が必要なんだよね。もちろん、買って来てそれで終わり、じゃなくて、その後も母の指示に従って色々と動くんだ」

「…なるほど」

「オレの父は長男だから親戚が年始の挨拶に来るし、そのおもてなしが結構大変なんだよね。なるべく母の負担を減らす為に、オレ達男性陣もできる事は毎年率先してやってるんだ。そんで地元の友達ともちょっと遊んで…」


そこまで言ってしまってからハッとした。


「あ。変な気は使わないで下さいね?俺は大丈夫ですから」


それが表情に現れたのか、吾妻さんが先手を打って言葉を発する。


「楽しそうなお正月ですね。ご家族とご親戚とお友達との時間、大切に過ごして来て下さい」

「う、うん…」

「では、おやすみなさい」


ドアを開けて外に一歩足を踏み出した吾妻さんにオレも慌てて挨拶を返す。


「お、おやすみ!良いお年を!」

「ありがとうございます。比企さんも、良いお年を」


笑顔でそう言いながら、吾妻さんは静かにドアを閉めた。

自分の配慮の無さに、一瞬深く落ち込みそうになったけれど、『いやいや、いちいち気を使って腫れ物に触るように接したりするのはかえって失礼だ!』と思い直す。


【年末年始実家に帰る】


事実を報告したまでで、そして吾妻さんは別段暗い顔はしていなかった。

この話はもう終わったんだから、いつまでもグジグジと悩まない!

オレは自分にそう言い聞かせながら、玄関の鍵を施錠し、チェーンをかけ、リビングへと戻った。

鍋敷きと紙皿等を食器棚の引き出し、扉の中に仕舞い、ダイニングテーブルを元の位置に戻す。

漂白して干しておいた布巾を手にし、ダイニング、リビングの順でテーブルの上を拭いてから、キッチンへと戻り、着け置き処理しておいた鍋と包丁を洗った。

やっぱお皿類を使い捨てにしたのは正解だった。

あっという間に後片付けは終了した。

しかもそのゴミの処分は吾妻さんが引き受けてくれたしね。


「さてと…。それじゃあ、お風呂にでも入って来ますか…」


呟きながら寝室へと向かう。

電気を付け、窓辺のランドリーハンガーに近付き、下着とタオルを回収した所でふと思い出した。
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