幸せになるために
「悩んだんだけどさ、やっぱ最大の目的は最初に立ち寄ったドイツのクリスマスマーケットだったし、ネームバリューもあるだろうから、土産はそこでまとめて買っちまった」

「最初に済ませておいた方が、その後ゆっくり観光できると思ったんです。どうせ郵送しちゃうんだから、荷物が邪魔になるって事もないし」


茉莉亜さんがにこやかな表情で会話に加わる。


「あ。と言っても、お土産選びが苦痛だったって訳ではないですよ?むしろ私それが一番の楽しみで、際限なく買いまくっちゃう恐れがあるからセーブしただけで」

「うん、分かる分かる。お土産選びも旅の醍醐味の一つだもんね」


ちょっと慌てて弁解した茉莉亜さんをフォローしつつ、オレは袋の底にまだ残っていたブツを手に取った。


「あ、可愛いー」


最後に登場したのは、透明のビニール袋で包装されている、レモン色のセーターとパープルのズボンを身に纏い、足を伸ばしてチョコンと座り、両手で開いて持っている青い表紙の本を嬉しそうに眺めている、茶色の木彫りのクマさんだった。


「これは…。クリスマスツリーに飾り付けるオーナメントかな?」


頭に紐がくっついていたので、とっさにそう推理した。

もちろんツリーに拘らず、カバンとか鍵に付けても良いんだろうけど。


「そうそう。やっぱあの時期にマーケットを覗いたからにゃあ、オーナメントは何かしらゲットしとかないとな!」


行く前はそんな事知らなかっただろうに、兄ちゃんはさも旅慣れしているかのように、得意気な顔で解説した。


「気に入ってもらえました?私は自分と友達用にその木彫りいっぱい買って来ちゃったんですけど、20代後半の男性に対するお土産としては、ちょっと可愛過ぎるかなって心配してたんですよ」

「ううん。オレ、こういうの好きだから」

「なー?だから言っただろー?たすくは案外ファンシーな物が好きなんだから。しかも本を読んでるクマさんなんて、図書館勤めのたすくにピッタリ!」

「ありがとね。こんなにたくさんお土産もらっちゃって」


興奮気味に発せられた、バリバリブラコン感が漂うそのセリフはあえてスルーして、オレは茉莉亜さんと兄ちゃんに順に頭を下げながら礼を述べた。


「チョコレートはさ、もし一人で消費するのが大変だったら、職場にでも持って行けよ」
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