幸せになるために
袋にお土産を戻しているオレに向けて、緑茶をすすりながら、落ち着きを取り戻した兄ちゃんがそう提案して来る。


「女性が多い職場だから、喜ばれるんじゃね?ていうか、それを想定してわざとデカイサイズの箱にしたんだけどさ」

「そうなんだ…」


しかし兄ちゃんのその言葉で、オレの脳裏には同僚達ではなく、吾妻さんの姿が浮かび上がった。

仕事の方が大丈夫そうだったら、部屋に招いて、このコーヒーとチョコでおもてなししようかな。

吾妻さんもオレ同様、意外と甘党っぽいもんね。

あ、でも『家族』のお土産なんて言ったら、また微妙な空気が漂ってしまうだろうか…。


「それじゃあ私、そろそろお昼を作り始めますね」


オレが悶々と悩んでいる間に、茉莉亜さんがそう宣言しつつ立ち上がった。


「ごめんね?まりちゃんの歓迎会を兼ねてるのに、本人にお料理作らせちゃって」

「ホントだよね」

「大丈夫ですよー。やっとたすくさんに私の手料理を食べてもらえるチャンスが来たんですもん!張り切って作りますよー」


母さんとオレの言葉に茉莉亜さんは陽気に笑って答えると、空になった自分の湯呑みを手に居間を出て行った。


「それじゃあ料理ができるまで…」


ミカンを食しつつ、静かに皆の会話に耳を傾けていた父さんが、おもむろに口を開く。


「父さん、かけるからお土産でワインをもらったんだ。一緒に飲んでみないか?」

「まぁ。昼間から?」


すかさず母さんが非難気味に声を上げた。


「3が日なら仕方ないけど、もうお正月気分は抜けた筈でしょ?」

「いやでも、たすくは夕方には帰らなくちゃいけないんだろ?明るいうちに飲むしかないじゃないか」

「良いじゃん、ちょっとくらい」


そこで兄ちゃんが父さんに加勢する。


「たすくはあんまりアルコールは得意じゃないからさ、ワインはわざと買ってこなかったんだけど、味見程度なら大丈夫だろ?」

「んー…。じゃあ、話のタネに飲んでみようかな」

「よし、そうと決まれば」

「あ、良いわよあなた。私が持って来るから」


おそらくワインとグラスを取りに行こうと立ち上がりかけた父さんを、母さんが素早く制した。
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