幸せになるために
結局、チョコレートは職場の仲間に食べてもらう事にした。


「いや~ん!すっごくおいしいっ。このチョコ!」

「お兄さんとお嫁さん、お土産選びのセンスがありますよねー」

「よろしくお伝えしてね、比企君」


午前の休憩時間に封を開け、とりあえずその場にいた人と事務室内の人に配ったら、とても好評だった。

そして遅番の人にも行き渡るように、【皆さんでご自由につまんで下さい。比企】というメモを貼り、テーブルの上に置いておいたんだけど、昼休み、午後の休憩と、見る毎に順調に減っていき、次の朝出勤した時には【比企さんチョコレートご馳走さまでした!】というメモがオレのロッカーに貼られていて、空になった箱が綺麗に畳まれ、ゴミ箱の中に入れられていた。


「あっという間に無くなっちゃいましたね」

「だって超美味しかったもん」

「比企さん、本当にご馳走さまでしたー」


エプロンを装着したり、身だしなみを整えたりしながら、皆口々に嬉しい感想や礼を言ってくれる。


「いえいえ。どういたしまして」


オレも持って来たかいがあるというものだ。

我ながらゲンキンだけれど、オレは気分上々で、毎朝朝礼を行う児童書コーナー前の広間へと、軽やかな足取りで向かったのだった。

年が明けてからホント、月日は疾風のごとく過ぎ去って行き。

日々の業務はもちろん、職場の新年会、勉強会と、イレギュラーな重要任務も真摯にこなしているうちに、気付いたらもう2月下旬となっていた。

そして休館日の今日、前々から計画されていた渡辺さん幹事によるカラオケ大会がようやく実現する事になり、参加を表明した総勢11人で、職場から程近いこのビルへとやって来た。

オレ達にとってはすっかり馴染みとなった店である。

最近のカラオケ店はレストラン並に食事メニューが豊富で味もなかなかだったりするので、職場の面々で利用する際は11時から16時まで大部屋を貸し切り、カラオケ大会兼ランチ兼お茶会となるようにしていた。

夜に飲み屋で宴会、という遊び方はした事がない。

翌日も出勤しなければならないメンバーもいるので、昼間集まって楽しんで、仕事に影響しないように夕方には解散しよう、というルールが自然と出来上がっていた。

今回も言わずもがなでそういうプランになるよう、幹事の渡辺さんは動いてくれている。
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