幸せになるために
そしてこの店はアルコール以外のドリンクは飲み放題なので、皆食事や歌の合間に自分のタイミングでコンスタントに部屋を抜け出し、新しい飲み物を汲みに行くのだった。

全員、毎回5杯以上は飲んでいる筈である。

オレもそのつもりでランチ後に、2回目のお代わりをするべく、フロント横のドリンクバーコーナーまで歩を進めたのだけれど…。

その後方に位置する、満室の際に客が順番待ちで利用するのであろうベンチが置かれているスペースに、何気に視線が向いた。

そしてグラスをバーカウンターに置いてフラフラと近付くと、思わず腰かけてしまったのだった。

そこで今さらながらに、自分の体調がイマイチであった事を自覚する。

ちょっと休んでから戻ろうかな…。

そう考えつつ、改めて周囲に視線を配った。

待ち時間を飽きさせないようにする為の配慮か、コの字型に並んでいるベンチの奥の壁際に、飲み物とスナック類の自動販売機、景品をゲットできるゲーム機が2台、設置してあった。

と言っても、平日のこの時間帯は順番待ちをするほどの混雑にはならないようで、オレの他には誰もいない。

その時、フロントで何やら作業している店員さんと一瞬目が合ってしまい、ドキリとしたけれど、特別何も言われたりはしなかった。


「あれ?比企さん、ジュースのお代わりじゃなかったんですか?」


ホッとしたのもつかの間、今度は背後から声をかけられ、オレはビクッとなりながら振り返る。

数メートル先のドリンクバーコーナーの前から、渡辺さんが不思議そうな表情でこちらを伺っていた。


「あ、えっと」


オレは慌てて言い訳を口にする。


「ちょっと、一休み。興奮し過ぎたのかな?何か、人に酔っちゃったみたいで」

「え?大丈夫ですか?」


言いながら、渡辺さんはコーヒーカップをカウンターに置き、今度は心配そうな表情で、足早にオレの傍らへと近付いて来た。


「うん、平気平気。すぐに落ち着いたし。ただ、もうちょっとぼーっとしていたいなと思って。部屋の中でそんな事してたらシラケさせちゃうだろうし…」

「えー?そんなの気にしなくて良いんですよー。疲れたんだったら静かに休んでても。楽しみ方は人それぞれなんですから」


そこで渡辺さんは何故か突然眉間にシワを寄せ、言葉を繋いだ。
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