幸せになるために
「よく飲みの席なんかで、口数が少ない人に対して『○○さん暗いな~。もっと盛り上がらないと~』とか調子こいて言う人がいるでしょ?私、ああいうの大っキライなんですよね」


本当に、心底不愉快そうな口調だった。


「不貞腐れてたり、話を振られたのにぶっきらぼうに答えたりするのはもちろん問題外ですよ?でも、ニコニコしながらただ大人しく周りの会話に耳を傾けているだけの人に対してバカ騒ぎを強要するような、自称サバサバ系、ムードメーカーを気取ってる奴ってのは世の中には確実に存在してるんですよね」

「ん~、まぁねぇ…」


そういう人が張り切ってくれるおかげで助かる場面もあるにはあるんだけど…。


「気を使っているようでいてむしろその人の事を皆の前で晒し者にしてるし、その余計な一言がかえってその場をシラケさせてるんだっつーのに。しかもそういう事を言い出すのに限って下品でしょーもないギャグを飛ばして奇声じみた笑い声を発するのが『場を盛り上げる』事だと勘違いしてたりするから始末におえない」


大抵の人がモヤモヤとしながらも、口には出さずに封印してしまうであろうその感情を、きちんと言葉にしてきっぱりと言い放った渡辺さんのその姿に、思わず笑みをこぼしながら称賛した。


「さすが渡辺さん。聞いてて清々しいな」

「……良かった」


しかし渡辺さんは、それまでの話の流れとはズレている、意外な返しをした。


「久々に、比企さんスマイルが見られて」

「へ!?」


オレが間抜けな声を発している間に、渡辺さんは素早く隣に腰かける。


「今日に限った事じゃなくて、比企さん、ここ最近ずっと元気がなかったから、心配してたんですよ?」

「う、うそ。ホント?」

「ええ。仕事はそつなくこなしているけど、何ていうかこう、本調子じゃないというか、覇気がないというか…」

「……疲れが溜まってたのかな?」


そう返答しつつも、実は他に思いあたるふしがあった。

いや、今の今まで自覚はなかったんだけど、渡辺さんに指摘されて、ふいに気付いたのである。

吾妻さんと、クリスマスイブ以降、なかなか思うようにコミュニケーションが取れていないという事に。

思えば、兄ちゃんのお土産を一緒に食べようと誘う事ができなかったあの時から、その躊躇した気持ちがずっと続いてしまっているんだよな。
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