幸せになるために
楽しいカラオケ大会が終了し、オレはその余韻に浸りながら軽やかな足取りで家路を辿った。
アパートに到着し、玄関のドアを開け、背負っていたリュックをとりあえず下駄箱の上に乗せてから、再び外に出る。
鍵を施錠し、102号室の前まで歩を進めると、躊躇することなく呼び鈴を押した。
「あれ?比企さん?」
ほどなくしてドアが開き、姿を見せた吾妻さんは、ちょっと驚いたような表情で、それに連動した声を上げた。
「ごめんね?突然。今、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫ですけど…。何か急用ですか?」
「ううん」
オレは吾妻さんに視線を合わせたまま、首を数回横に振り、答える。
「別にこれといって用事はないよ。ただ、会いたいから会いに来たんだ」
「えっ…」
吾妻さんはさらに目を見開き一瞬呆けてから、ハッとしたように言葉を発した。
「そ、そうですか。あ、とりあえず、上がって下さい」
「ありがとう」
オレは礼を述べながら玄関に入り、鍵を閉め、出されたスリッパに足を通すと、こちらを振り返りつつ先を歩いていた吾妻さんの後を追って廊下を進み、リビングダイニングキッチンへと入る。
「それ、可愛いですね」
吾妻さんはキッチンでお茶の準備をしながら、ダイニングの椅子に腰かけ、その様子を見守っているオレに話題を振って来た。
「右手に持ってるやつ。クマですか?」
「え?ああ…」
指摘されて初めて自分が、玄関の鍵と、そこにキーホルダーとして付けている木彫りのクマさんを、ずっと右手で握っていた事に気が付いた。
なんやかんやで、やっぱ緊張していたのかもしれない…。
「うん。可愛いでしょ?ドイツのお土産なんだ」
「へぇ~」
「兄が、去年結婚して、新婚旅行でヨーロッパを回ったから」
「そうなんですか。すごいですね」
吾妻さんの表情を見ながら意を決して発した言葉だったけれど、別段、彼に変化は現れなかった。
ホッとしながら、キーホルダーを背もたれに掛けてあるジャケットのポッケに入れようとした所で、ポットのお湯を注ぐ為にカウンターに近付いて来た吾妻さんに問いかけられる。
「すみません。それ、じっくり見せていただいても良いですか?」
「あ、うん。どうぞどうぞ」
お互いに体と手を伸ばし、カウンター越しにクマさんを授受した。
アパートに到着し、玄関のドアを開け、背負っていたリュックをとりあえず下駄箱の上に乗せてから、再び外に出る。
鍵を施錠し、102号室の前まで歩を進めると、躊躇することなく呼び鈴を押した。
「あれ?比企さん?」
ほどなくしてドアが開き、姿を見せた吾妻さんは、ちょっと驚いたような表情で、それに連動した声を上げた。
「ごめんね?突然。今、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫ですけど…。何か急用ですか?」
「ううん」
オレは吾妻さんに視線を合わせたまま、首を数回横に振り、答える。
「別にこれといって用事はないよ。ただ、会いたいから会いに来たんだ」
「えっ…」
吾妻さんはさらに目を見開き一瞬呆けてから、ハッとしたように言葉を発した。
「そ、そうですか。あ、とりあえず、上がって下さい」
「ありがとう」
オレは礼を述べながら玄関に入り、鍵を閉め、出されたスリッパに足を通すと、こちらを振り返りつつ先を歩いていた吾妻さんの後を追って廊下を進み、リビングダイニングキッチンへと入る。
「それ、可愛いですね」
吾妻さんはキッチンでお茶の準備をしながら、ダイニングの椅子に腰かけ、その様子を見守っているオレに話題を振って来た。
「右手に持ってるやつ。クマですか?」
「え?ああ…」
指摘されて初めて自分が、玄関の鍵と、そこにキーホルダーとして付けている木彫りのクマさんを、ずっと右手で握っていた事に気が付いた。
なんやかんやで、やっぱ緊張していたのかもしれない…。
「うん。可愛いでしょ?ドイツのお土産なんだ」
「へぇ~」
「兄が、去年結婚して、新婚旅行でヨーロッパを回ったから」
「そうなんですか。すごいですね」
吾妻さんの表情を見ながら意を決して発した言葉だったけれど、別段、彼に変化は現れなかった。
ホッとしながら、キーホルダーを背もたれに掛けてあるジャケットのポッケに入れようとした所で、ポットのお湯を注ぐ為にカウンターに近付いて来た吾妻さんに問いかけられる。
「すみません。それ、じっくり見せていただいても良いですか?」
「あ、うん。どうぞどうぞ」
お互いに体と手を伸ばし、カウンター越しにクマさんを授受した。