幸せになるために
調理中はもちろん、それを食した後、次回のメニュー決めの際も二人で目を通す。

又貸しはマズイので返却までの2週間は必ずオレが管理してるけど。

材料の買い出しに行く時は自筆のメモを持参するから、本そのものは必要ないし。


『んー。じゃ、昼休みは?あの辺て、駅前に色々な飲食店があったよな?』


なんて、吾妻さんとの料理教室を開催するに至った経緯を回想している間に、兄ちゃんは話を進めた。


『俺が先にそこに行って場所取りしといてさ、そんで昼休みに入ったたすくが合流するってのはどうだ?』

「え?つ、つーか、何でそんなに急いで会おうとするの?」


必死に食い下がって来る兄ちゃんに、かなり戸惑いつつ問いかける。


『ちょっと、伝えたい事があってさ…』

「今、電話でじゃダメなの?」

『いんや。直接会って話したいんだ』

「あ。だったら、来週金曜日に、オレが実家に行くけど?ちょうど探したい物があるし…」

『いやいや、とてもじゃないけどそれまで待てそうにないから』


結局、兄ちゃんに押し切られる形で会う事を了承する事となった。

場所はオレが指定して、さらに「じゃあオムライスセット頼んでおいて」と依頼して、ひとまず話はそこで終了したのである。

そして約束通り、昼休みに職場を抜け出して、このファミレスに赴いたわけなんだけども…。


「あ、もう来たんだ」


アイスウーロン茶を手にテーブルに戻ると、すでに料理がそれぞれの席の前に置かれていた。

兄ちゃんはどうやらハンバーグセットを頼んだようだ。

昔から大好物だもんね。


「すっごいグッドタイミング。やっぱ前もって注文してもらっておいて正解だったな」

「ああ。さ、食え食え。時間ないだろ?」


オレが椅子に腰かけた所で、兄ちゃんがそう急かして来た。


「うん」


素直にそれに従う事にして、「いただきます」と唱えたあと、まずは注いできたウーロン茶で喉を潤してから、フォークを手に取る。


「あ。そうだ。納戸の洋服ダンスの中に、オレの礼服が入ってたかどうかなんて分かる?」


ふと思い出し、セットに付いてるサラダのトマトを頬張り、咀嚼しつつ問いかけた。
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