幸せになるために
「ん?礼服?」


兄ちゃんは、目の前のハンバーグをナイフとフォークでせっせと一口サイズに切り分けながら聞き返して来る。


「うん。11月に、職場の後輩の子の結婚式があってさ」


渡辺さんから数日前、正式に招待状をいただき、すでに出席の返事を出していた。


「へぇ~。そうなんだ。全員参加か?」

「え?まさか。全部で何10人っているんだよ?それは無理。ていうか、そもそもその日は土曜日だし。バリバリ開館日だもん。全員呼ぶのは不可能だよ」


小皿に盛られたサラダは瞬く間に食べ終え、オレはフォークからスプーンに持ちかえて、メインディッシュであるオムライスに挑みながら会話を続けた。


「代表として、その子から見て上司にあたる人と、同期で親交の深い人を招待するみたい」

「おお~。『上司』!」


すると兄ちゃんは大袈裟にのけぞりながら声を発した。


「そっか、お前マネージャーに昇格したんだもんな。職場ではバリバリ『上司』と呼ばれる立場なんだよな」


言いながら、フォークに刺さっていたハンバーグにパクっと食らいつく。


「う、うん。まぁね…」


2月に参加した勉強会で無事及第点をもらえて、オレは4月から『マネージャー』として勤務する事となった。

役職の呼び名、定義っていうのは会社によって異なるけれど、とりあえず我が職場ではチーフが主任、マネージャーが係長、っていう感じで使われている。

今までは小さいグループのリーダー(チーフ)だったけれど、今度はそのリーダーから報告、連絡、相談を受けるまとめ役(マネージャー)の立場になったという訳だ。

といっても、皆さんしっかり者で日々の業務はスムーズに進んでいるし、ミーティングの際も「じゃ、いつも通りにお願いします」くらいしか発言する事がなくて、とても楽させてもらっている。

だから自分の中ではあんまり「昇進した」っていう意識はないんだよね。

もちろん、イコール仕事を甘く見てるって意味ではなくて、現段階でやるべき事はきちんと、それなりに緊張感を持ってやらせてもらってはいるけどさ。
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