幸せになるために
オレが黙ったとしても、てっきり兄ちゃんがすぐに話を再開するかと思っていたのに、一向にその気配がないので痺れを切らして問いかける。


「何で本題に入らないの?」

「ん?」


兄ちゃんはライスを口いっぱいに頬張った状態で顔を上げた。


「ん?じゃなくて。早急に伝えたい事があるから今日このタイミングでわざわざ待ち合わせしたんでしょ?早く言ってくれないと、時間がなくなっちゃうよ」

「ん、うん…」


兄ちゃんはくぐもった声で返事をしながら大きく頷くと、口の中の物を急いで咀嚼して呑み込み、それをいち早く胃へと到達させる為か、アイスコーヒーのグラスを手に取って半分くらい残っていた中身を一気に飲み干した。

グラスを元の位置に戻し、テーブルの端に立てて置かれていた紙ナプキンを一枚抜き取ると、口元を丁寧に拭う。

そして、それを丸めてライスの皿の横に置くと、コホン、と咳払いしながら姿勢を正して椅子に座り直し、発言した。


「実は…。茉莉亜が今、病院通いをしてるんだけどさ…」

「え!?」


突然の告白に、思いっきり度肝を抜かれる。


「う、うそ。茉莉亜さん、どこか悪いの!?」

「いんや。病気ではないから」

「へ?」

「で、昨日も定期検診に行ってさ、先生の診断を聞いて、お前にも報告する事になったんだけど…」


そこで兄ちゃんは数回深呼吸を繰り返してから、意を決したように言葉を繋いだ。


「実は今茉莉亜のお腹の中には、赤ちゃんが宿っているんだよ」

「え……。えぇー!?」


わずかなタイムラグのあと、オレは思わず雄叫びを上げてしまい、ハッとしながら両手で口を覆いつつ周りを見渡す。

だけど幸いな事に、ちょうどそれぞれのテーブルに料理が出揃った所だったらしく、それを食しながらの会話で店内は大いに賑わっていたので、オレ一人が目立つという事はなかった。
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