幸せになるために
「う、うわ~!おめでとー!」


それでも、やはり公共の場であまり羽目を外すべきではないと思い、油断すると弾けそうになるテンションを何とか頑張って抑えつつ、オレは祝福の言葉を述べた。


「サンキュー」


満面の笑みを浮かべてそう答えてから、兄ちゃんは続ける。


「ホントはもうちょっと前から分かってたんだけどさ、茉莉亜が安定期に入るまでは内緒にしておきたいって言ってて。つっても、つわりがあったから一つ屋根の下にいる父さん母さんに隠しておくのは難しいし、二人にはすぐに報告したけど」

「え?安定期?」

「妊娠5ヶ月目に入ってからを言うらしいんだよ。もちろん、それを過ぎれば安心って訳ではないぜ?あくまでも一つの山場を越えたってだけだから」

「うんうん。お腹の中で命を育んでいるんだもんね。無事生まれるまで、気は抜けないよね」

「んで、昨日先生から『順調に育ってますよ』っていうお墨付きをいただいたから、それじゃあもう情報解禁しても大丈夫だなと」

「それでさっそくオレに連絡をくれたって訳か」

「そ!あ~、無事報告できた!早くたすくに言いたくてウズウズしてたんだけどさ、いざその時になってみると緊張するものなんだな~」


言葉通り、とてもやりきった感満載の表情を浮かべ、背もたれにだら~んと寄りかかる兄ちゃんのその姿にオレは思わず「アハハ」と笑ってしまった。

その波がひとまず治まった所で、ウーロン茶のグラスに手を伸ばしつつ問いかける。


「今5ヶ月って事は、予定日はいつなの?」

「それがさ、12月24日なんだよ」

「……え?」

「世界共通の、有名な記念日のうちの一日だもんな~。何かテンション上がっちまうよ。あ。もちろん、予定日通りに生まれて来るとは限らないし、たとえ誕生日がクリスマスイブにならなくても、我が子が生まれた日が俺達にとって大切な記念日になる事に変わりはないんだけどさ」


グラスを中途半端な高さに掲げたまま固まっているオレには気付かずに、兄ちゃんはとても幸せそうな表情で続けた。


「そんでさ、エコー検査で確認してもらったんだけど、先生いわく、多分男の子だろうって事なんだよな~。何で『多分』かというと、5ヶ月くらいじゃまだ先生も自信がないらしくて。だから来月の検診でまた改めて確認する事に……」
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