幸せになるために
久々に得た機会に、一心不乱に水回りのクリーニングを遂行した。

頭上からの照明に照らされ、キラキラと輝く程に磨き上がったそれぞれのエリアの主達の姿を目に焼き付けてから、この上ない達成感に包まれつつキッチンへと移動する。

ここまでで結構な量の汗を書いたので、水分を摂取するべく、冷蔵庫で常時冷やしてある麦茶を取り出した。

『喉が渇いた時は麦茶を飲みなさい』と、物心ついた時から耳にタコができるほど母さんに言われ続けて来たのだ。

『スポーツドリンクは糖分も一緒に取ってしまうし、水だけだと失われたミネラル分が充分に補給できないから、麦茶を飲むのが一番なのよ』と。

家で作れば安く済むし、その作り方だって、ただやかんで煮出すだけだし、さらに水からでも作れるやつがあったりするので手間もかからない。

だから実家では夏はもちろん、起床後や風呂上がりなどの体が水分を欲するタイミングに合わせて飲めるよう、一年中、麦茶入りの容器が最低2本、冷蔵庫内に用意されていた。

ちなみに、麦茶の製造は『そろそろ1本空になるな』と気付いた者が担うというルールであった。

一人暮らしを開始してからも当然、その習慣は続けているという訳だ。


『あ、ちょうど終わった』


コップのふちギリギリまで注いだ所で容器が空になったので、新たな麦茶を作るべく、やかんに水を入れ、そこにティーバッグを投入して火にかけた。

その間に容器を丁寧に洗い、布巾で水気を拭き取っておく。

流し台の前に立ったまま、ちびりちびりと麦茶に口をつけていると、ほどなくして湯が沸騰し、やかんが鳴き始めたので口を開けて音を消した。

心の中で1、2と秒数を数えながら残りの麦茶を飲み干し、30秒になった所でコップを流し台に置いて火を止め、やかんのフタを取って菜箸を突っ込み、ティーバッグを掴む。

湯の中でユラユラと泳がせたあと持ち上げて、ギュ、ギュ、とエキスを絞り取ってから流しの三角コーナーに捨てた。

あとは、ある程度冷めるまでこのまま放置。

麦茶の容器は耐熱性だから熱いままでも大丈夫なんだけど、どっちみちすぐには冷蔵庫に入れられないし、だったら冷ましてから移し替えた方が火傷の危険がなくなって効率的だ。
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