幸せになるために
製品のパッケージの裏側に書かれている作り方とはだいぶ異なっているかもしれないけど、別に味に支障はないし、このやり方が染み付いてしまっているのであえて直すつもりはない。

ちなみに、実家の水道には浄水器が設置してあるので水出しで作る時もあったけど、ここにはそんな文明の利器は無いし、その水をダイレクトに口に入れるのはちょっと抵抗があるので、アパートでの麦茶の製造方法は煮出し一択である。

安くあがるから自分で作るのであって、水出しの麦茶用にミネラルウォーターなんか買ったりしてたら本末転倒だもんね。


「はぁ~、さすがに疲れた~。ちょっと一休みしよ~」


言いながら、リビングへと歩を進め、ソファーにドカッと腰を落とす。

テレビでも点けようとテーブルに手を伸ばした所で、そこにあるハズのリモコンが無い事に気が付いた。


「あれ?」


テーブルの下や自分の足元をキョロキョロと見回し、ふと、背後にある本棚に視線を向けると、ちょうど目線の高さにある上から4段目の本の上にちょこん、と乗っていた。


「へ!?」


思わず素頓狂な声が出る。


「な、何でこんな所に…」


戸惑いながらも、とりあえずリモコンを手に取り、電源を入れた。

え~と…。

テレビ画面に映し出されているニュース映像をぼんやりと眺めながら昨夜の自分の行動を反芻する。

確か、風呂から出たあと、バラエティー番組を見てたんだよな。

だけどあんまり心惹かれる内容じゃなかったから、布団に入って読みかけの本の続きでも読もうかと思い、テレビを消して本棚の方に体を向けた。


「あ、そうか!」


その時きっと、リモコンをテーブルに戻さずに、手に持ったまま本を探し始めちゃったんだ。

そんで目当ての本を見つけて、それを抜き取る時に無意識のうちにリモコンを違う本の上に置いちゃって、そのまま寝室に行ってしまった、と。

うん、そうだ。

きっとそうに違いない。

自分ではそんな事をやった記憶は全くないけど、そもそも自覚があったらリモコンをちゃんと元の位置に戻すに決まってるんだから、それで良いんだよ。

ちゃんと、摩訶不思議な出来事の説明がついた。
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