幸せになるために
大満足の昼食を終えたあと、歯を磨き、外出着に着替え、さっそく買い物へと出発する事にした。

調理に一体どれぐらいの時間がかかるか分からないし、早いうちから取りかかれるように、さっさと食材と道具を調達してこなければ。


「あれ?」


玄関のドアを施錠し、数歩歩いた所で、左足のスニーカーのヒモがほどけている事に気がつく。

右の方はかろうじてリボンの形を保ってはいるけれど、かなり緩んでいて、こちらもほどけるのは時間の問題だった。


「また…?」


オレはそう呟きつつその場に屈み込む。

何だか最近、家からどこかに向かう途中でスニーカーのヒモがよくほどける事に気が付いた。

一回きっちり結び直せば後は大丈夫なんだけど。

履き方に問題があるのだろうか?

オレはスニーカーに限らず、靴を履く際、ヘラを使ったりいちいちヒモをほどいたりはせずに、足を突っ込んだ後つま先をトントンして強引にねじ込んでしまう。

その過程で結び目が緩んで、そんで歩いているうちにどんどんほどけて行ってしまうのかもしれない。

それでも、実家にいる時はこんな頻繁に靴ヒモがほどける事はなかったけどね…。

まぁ、オレは靴をあんま持ってなくて、特にここ数週間は気に入ったスニーカーをヘビーローテーションで履いてるから、きっとヒモの劣化が急速に進んでしまったんだろう。

それでもうトントン作業時の振動に耐えられる程の強度はなくなり、すぐに緩むようになってしまった、と。

うん、そうそう。

もう良いよ、そういう事にしておけば。

オレは投げやりに謎解きを終了させると、右の靴ヒモも結び直そうと、今度は右膝を立てた。

その時、至近距離でガチャ、という音がしたのには気が付いてはいた。

でも、それの意味することがすぐには理解できなくて、目の端にその動きを捉えてからハッとする。


「おわっ」


しかし、時すでに遅し、であった。

おでこの右側に衝撃が走り、不安定な体勢だったことも手伝って、オレはその物体に振り払われるように横向きに倒れ込んだ。


「え!?」


オレの叫び声のすぐ後に、頭上から、相手の焦ったような声が響いて来る。
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