幸せになるために
「だ、大丈夫ですか!?比企さん!」

「うう……」


情けない事に、その問い掛けにすぐに反応する事はできなかった。

地面に横たわったまま、目を閉じ、おでこから発せられるジンジンと疼くような痛みに必死に耐える。

あ…。

瞼の裏に、チカチカとお星さまが瞬いてる…。

しかし、いつまでもこの場に寝転がっている訳にはいかないし、声をかけてくれている人物にいらぬ精神的負担をかけぬよう、オレはのろのろと起き上がりながら、上手に作れているかどうかは定かじゃないけどとりあえず笑顔を浮かべて返答した。


「だ、だいじょうぶ……」
「あ!」


しかし、「ですよ」とオレが言い切る前に、その人物…お隣のあずまさんは、更に緊迫感の増した声を上げた。


「額から血が出てる!」

「えっ」


咄嗟に、痛みの激しい部分に右手の指先を押し合て、目の前にかざしてみると、その言葉を裏付けるようにうっすらと血液が付着していた。

クラッとめまいがして、せっかく上半身を起こしたのに、またもやそのまま倒れそうになる。

するとあずまさんは素早く屈みこみ、オレの両肩をガシッと掴んで体を支えてくれた。


「大丈夫ですか?」


そして目と目を合わせ、真剣な表情で再び問い掛けて来る。


「立ち上がる事はできますか?」

「あ、は、はい。大丈夫です」


おかげで遠退きそうだった意識を取り戻す事ができ、今度こそきちんと返答する事ができた。


するとあずまさんはそのままオレの左腕を取って立ち上がらせると、驚きの言葉を口にする。


「じゃ、病院行きましょう」

「へ!?」

「今、タクシー呼んで来ますから。とりあえずそこに座ってもらって…」


言いながら、あずまさんは全開のドアから丸見えの、102号室の玄関の上リ口を右手で指し示す。


「えぇー!?び、病院なんて行かなくて良いよー」


何やら大事になりそうな気配にビビりながらも慌てて申し出を辞退した。


「そんな大袈裟にされたら困る~」

「いやでも、頭打ってるし、血も出てるし…」

「打ったと言っても意識ははっきりしてるし、それに、ホラ」


再度ケガした箇所に指を触れて、改めて確信した。
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