幸せになるために
寝る前に、ぜひともやっておきたい事があるしね…。

入浴後髪をドライヤーで乾かし、歯を磨き、顔を洗い、さて、と気合いを入れて、オレはリビングへと移動した。

ソファーの裏側では、相変わらず聖くんが、気持ち良さそうに寝息を立てている。


「ふふ、ほんと『萌え~』だよな~」


気分がほっこりとした所で、よっこいせ、とソファーに腰掛け、目の前のテーブル上のケータイに手を伸ばした。

いよいよこの時が、来てしまったか……。

まずはネットに接続し、現れた画面の検索窓に「山田聖」と入力してみる。

すぐさま、結果が表示された。

検索システムでキーワードを入力すれば、ホント、それに関連する情報は簡単に、大量にヒットするんだよね。

しかし問題はそのあとだ。

吾妻さんも同じ考えでいるようだけれど、そこから、本当に自分が求めている、信用に値する情報に行き着くまで、取捨選択を繰り返して行かなくてはならない。

なかなか根気のいる作業だと思う。

だからオレは「気軽に」ネットで情報を収集する、という言葉には前々からちょっと抵抗があって…。

それが誰かのプライベートに関わる事ならばなおさら。

だけど吾妻さんのあの思わせ振りな発言の数々を聞いてしまったら、とてもじゃないけど調べずにはいられない。

こんなモヤモヤを抱えたまま、眠りに就く事なんかできない。

だから今回ばかりは覚悟を決めて、インターネットの世界に身を投じてみようと思う。

とりあえず、まずは一番上に表示されている記事の見出しを、何気に目で追った。


……………………え?


しかし、その文字列を見つめたまま、しばらくの間フリーズする事となる。

ハッと我に返り、何かの間違いではないのか?と希望的観測をしつつ、震える指先で画面をスクロールして行った。

しかし次の見出しにもその次の見出しにも、文の構成に差はあれど、ある事実を差し示すワードが必ず表記されていた。

意を決して、その中の一つを選び、本文に目を通す。

それが読み終わったら、前の画面に戻り、他の記事も貪るように読んだ。

その作業を繰り返して行くうちに、指先の震えは全身へと伝わって行く。


「んぅ~…」


突然、背後から聖くんのぐずったような声が聞こえ、オレはビクッと飛び上がるのと同時に、思わず電源ボタンを連打してネットを終了させてしまった。
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