幸せになるために
「だけど、最近一人暮らしを始めた比企さんは、今ちょうど過渡期に突入しているって訳ですね」

「ん?うん、まぁね」


それぞれ自分のロッカーの前に立ち、扉を開け、昼食を取り出しながら会話を続ける。


「じゃあ、それを明るく乗り切るためにも、また皆でカラオケでも行きましょうよ!今度は私が幹事をやりますから」

「あ、良いねー」


同じ夢を求めてここにたどり着いた仲間達、という意識があるからなのか、我が職場は結束力がとても強く、仕事は和気あいあいとしたムードの中スムーズに進むし、プライベートでも仲良く遊びに出掛ける事が多かった。

カラオケやボーリングや、時にはスイーツ食べ放題など。

ちなみに幹事は言い出しっぺの人がやるのが暗黙のルールとなっている。

もちろん、常に全員のスケジュールが揃う訳ではないので、その時その時で参加人数は変動するし、オレ自身、都合がつかず、誘いを断った事は何度かある。

そして言わずもがなで、男性はオレ一人。

いや、オレの他に3人、男性スタッフはいるのだけれど、1人は館長さんで年齢が大分上だし、1人は年齢はオレと変わらないけど既婚者で家族サービスをしなくちゃいけないし、1人は自宅がかなり遠方だったりする。

精神的にも物理的にも、休日に職場の女性達とアクティブに遊び歩く、というのは難しい立場の方達なので、基本、忘年会や新年会、歓送迎会しか参加していない。

いや、いくらそれが可能だからといって、やっぱオレのように女性の中に男が一人混じってお出かけ、というのは普通はしないものなのかもしれないけれど。

でも、吾妻さんにも言ったけど、オレ、ホントそういうシチュエーションって、全く気にならないんだよね。

むしろ、男友達とは絶対にチョイスしない(できない)ような場所に連れて行ってもらえるから、すごく新鮮だし貴重な体験をさせてもらっていると思う。


「え~?なになに?何の話?」


昼食の入った袋を手に、渡辺さんと共に部屋の中央に置かれているテーブルへと移動した所で、遅れてやって来た二人の同僚が会話に加わって来た。


「あ、またカラオケに行こうって話してたんですよ。高橋さんと斉藤さんもどうですか?」

「もちろん、行く行く!」

「私もー!」
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