幸せになるために
最小限に開いたドアの隙間から外の様子を伺うようにしていた吾妻さんは、オレの姿を確認すると顔を綻ばせた。
そしてドアを全開にしつつ、言葉を続ける。
「足音がこの部屋の前で止まったから、もしかしてって、思ったんですよね」
「えっ?吾妻さんてすげー耳が良いんだね」
「俺に、話があるんじゃないんですか?」
びっくり仰天して思わず発したオレの感想はスルーして、彼は表情を引き締め、問い掛けて来た。
「聖くんに関する事で…」
「……うん」
「とりあえず入って下さい」
言いながら、吾妻さんはドアに体を密着させてオレの為にスペースを開けた。
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎ、吾妻さんが出してくれたスリッパに履き替え、彼の後に付いて廊下を進み、ダイニングまで移動する。
昨日と同じ椅子を勧められ、ジャケットとリュックを背もたれにかけさせてもらい、着席している間に、吾妻さんはキッチンへと向かった。
カウンターの上にはすでに、カップと個包装のお菓子が盛られたガラスの器が用意されていて、吾妻さんは仕上げとばかりに、カップにコーヒーの粉を入れて湯を注ぐと、それらをトレイに載せて再びダイニングテーブルへと戻って来る。
それぞれの席の前にコーヒー、テーブルの中央にお茶うけを置くと、吾妻さんは「どうぞ、召し上がって下さい」と言いつつ席に着いた。
「見たよ……」
吾妻さんの言葉に対しての返答じゃない上に、主語を忘れてしまったけれど、それでも、彼には充分過ぎるほど伝わっているだろう。
「昨夜、ネットでさっそく」
「……そうですか」
「過去にあった、痛ましい事件をまとめている個人のサイトやら、掲示板やらがヒットしてさ……。そこを見ただけでもう、何があったか、九割がた分かっちゃったよ」
吾妻さんは無言のままマグカップを手に取り、口を付けた。
「本当だったらそれをそのまま鵜呑みにするんじゃなくて、『裏付け』が必要なんだろうけどさ。でも、それが法的にどうなのかは知らないけど、ソースとして新聞の記事が引用されていたし、それに、吾妻さんとの会話を思い返せばもう、それ以外に答えはないから」
それまでぼんやりと目の前の空間を眺めつつ言葉を発していたオレは、きちんと吾妻さんに視線を合わせてから、続けた。
「山田聖くんは虐待を受け続けた末に、命を落としてしまったんだね」
そしてドアを全開にしつつ、言葉を続ける。
「足音がこの部屋の前で止まったから、もしかしてって、思ったんですよね」
「えっ?吾妻さんてすげー耳が良いんだね」
「俺に、話があるんじゃないんですか?」
びっくり仰天して思わず発したオレの感想はスルーして、彼は表情を引き締め、問い掛けて来た。
「聖くんに関する事で…」
「……うん」
「とりあえず入って下さい」
言いながら、吾妻さんはドアに体を密着させてオレの為にスペースを開けた。
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎ、吾妻さんが出してくれたスリッパに履き替え、彼の後に付いて廊下を進み、ダイニングまで移動する。
昨日と同じ椅子を勧められ、ジャケットとリュックを背もたれにかけさせてもらい、着席している間に、吾妻さんはキッチンへと向かった。
カウンターの上にはすでに、カップと個包装のお菓子が盛られたガラスの器が用意されていて、吾妻さんは仕上げとばかりに、カップにコーヒーの粉を入れて湯を注ぐと、それらをトレイに載せて再びダイニングテーブルへと戻って来る。
それぞれの席の前にコーヒー、テーブルの中央にお茶うけを置くと、吾妻さんは「どうぞ、召し上がって下さい」と言いつつ席に着いた。
「見たよ……」
吾妻さんの言葉に対しての返答じゃない上に、主語を忘れてしまったけれど、それでも、彼には充分過ぎるほど伝わっているだろう。
「昨夜、ネットでさっそく」
「……そうですか」
「過去にあった、痛ましい事件をまとめている個人のサイトやら、掲示板やらがヒットしてさ……。そこを見ただけでもう、何があったか、九割がた分かっちゃったよ」
吾妻さんは無言のままマグカップを手に取り、口を付けた。
「本当だったらそれをそのまま鵜呑みにするんじゃなくて、『裏付け』が必要なんだろうけどさ。でも、それが法的にどうなのかは知らないけど、ソースとして新聞の記事が引用されていたし、それに、吾妻さんとの会話を思い返せばもう、それ以外に答えはないから」
それまでぼんやりと目の前の空間を眺めつつ言葉を発していたオレは、きちんと吾妻さんに視線を合わせてから、続けた。
「山田聖くんは虐待を受け続けた末に、命を落としてしまったんだね」