幸せになるために
建物が劣化してると言っても、事故当時築1年数ヶ月だったらしいから、現時点では16年くらいって事だし、微々たるもんだろう。

しかも事故後リフォームもしてくれてるみたいだし。

こちとら築50年近い木造住宅に住んでたんだから、まだまだ全然キレイで新しく感じるハズ。

そんな空間を月々4万円で提供してもらえるなんて、むしろとんでもなくラッキーな事なんじゃないだろうか。

オレが部屋探しをしてる時にちょうど空いてるだなんて、ほんとツイテる。


「ただ…」


しかし、そんなオレのポジティブ思考とは対照的な、どこか憂いを含んだ声音で鈴木さんは言葉を紡いだ。


「先ほど、常に『ほぼ』満室状態と申し上げましたが、言い換えれば埋まらない部屋もあったという事でして…」

「へ?」

「103号室だけは他の部屋とは状況が異なりまして、空き部屋の期間が多くありました。新しい借り手が現れたと思っても、すぐにまた引っ越しされてしまったり」

「え?え?」

「だいたい皆さん平均3ヶ月程で他所へ移ってしまいましたかね。一番長続きした方でも1年弱だったと思います」

「ち、ちょっと待って下さい?」


何だか雲行きが怪しくなって来たぞ。


「103号室は、今『たまたま』空いてた訳じゃなくて、ず~っと借り手がいなかったって事ですか?」

「お客様の考える『ず~っと』という期間がどれくらいなのかは分かりかねますが、ひとまず現時点では半年間空き部屋の状態です」

「あ、何年間も無人だった訳ではないんですね…」

「ええ。何しろ条件に関しては非の打ち所がありませんから。契約して下さる方はコンスタントに現れるのです」

「だけどすぐに出て行ってしまう、と」

「さようで」

「えっと…。それってもしかして、その部屋には男の子のユーレイが出ちゃったりなんかしちゃったりしてるってことでしょうか…?」

「いえ。明確に何かのトラブルが起きた、という報告は受けておりません。ただ…」

「ただ?」

「皆さん、何かがおかしいと…」

「えぇ~?な、なんか、それって抽象的過ぎるなぁ~」


オレは思わずタメ口をききながら上半身を後方に退け反らせた。

しかしすぐに姿勢を元の状態に戻して物申す。
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