幸せになるために
一体どれだけ寒くて怖くて心細かったことか……。
「深夜に車で帰宅したアパートの住人が、ベランダの隅で丸くなっている聖くんに気付き、103号室に抗議しに行ったそうなんですが、『気付かないうちに聖が勝手に一人で外に出て遊んでいたんだ。そっちこそこんな時間に何なんだ。警察を呼ぶぞ』と、逆に男に脅されてしまったそうです」
「だったら、いっそのこと、本当に呼んでしまえば良かったのに」
なんて。
今、この場でなら強気でそう主張する事ができるけれど、いざ自分がその立場になった時に、果たして思う通りの行動が取れるのかどうか……。
一般人にとって警察と関わるというのは、やはりかなりの覚悟がいる事である。
それに「躾の一環」「子どもがいたずらでやったこと」と言い切られてしまっては、やはりそれ以上首を突っ込むのは難しいかもしれない。
ここでは威勢良くいられても、そんな男を目の前にしたら、余所の家の問題に深く関わってはいられない、やっかいな事には巻き込まれたくない、という考えが頭を過ってしまうかもしれない。
オレが、遠い未来の安全な場所から『ああすれば良かったのに』『こうすれば良かったのに』とたまたまそこに居合わせる事になってしまった善意の第三者を責めるのはお門違いというものかもしれない。
だけど…。
幼い聖くんがそんな理不尽な仕打ちを受けなければならない理由など、何一つなかった訳で。
とてもじゃないけど『仕方がなかった』の一言で済ませられるような問題でもない。
「しかしさすがにその一件で、『これは児童相談所に通報すべきなのでは』という意見が住人の間で出て来たようです」
オレがグルグルと考えを巡らせている間に、吾妻さんは話を展開させた。
「そこでやっとか、と思うかもしれませんが、やはり15年も前の事ですからね。今でこそ「確たる証拠がなくても疑いを持った時点で通報を」という流れが出来ていますが、昔はとても敷居が高かったでしょうし、普通に生きてきた人達がそういったアクションを起こすというのは、とても勇気がいったことと思います」
「……保育園の方では、何で通報していなかったんだろうね?」
「深夜に車で帰宅したアパートの住人が、ベランダの隅で丸くなっている聖くんに気付き、103号室に抗議しに行ったそうなんですが、『気付かないうちに聖が勝手に一人で外に出て遊んでいたんだ。そっちこそこんな時間に何なんだ。警察を呼ぶぞ』と、逆に男に脅されてしまったそうです」
「だったら、いっそのこと、本当に呼んでしまえば良かったのに」
なんて。
今、この場でなら強気でそう主張する事ができるけれど、いざ自分がその立場になった時に、果たして思う通りの行動が取れるのかどうか……。
一般人にとって警察と関わるというのは、やはりかなりの覚悟がいる事である。
それに「躾の一環」「子どもがいたずらでやったこと」と言い切られてしまっては、やはりそれ以上首を突っ込むのは難しいかもしれない。
ここでは威勢良くいられても、そんな男を目の前にしたら、余所の家の問題に深く関わってはいられない、やっかいな事には巻き込まれたくない、という考えが頭を過ってしまうかもしれない。
オレが、遠い未来の安全な場所から『ああすれば良かったのに』『こうすれば良かったのに』とたまたまそこに居合わせる事になってしまった善意の第三者を責めるのはお門違いというものかもしれない。
だけど…。
幼い聖くんがそんな理不尽な仕打ちを受けなければならない理由など、何一つなかった訳で。
とてもじゃないけど『仕方がなかった』の一言で済ませられるような問題でもない。
「しかしさすがにその一件で、『これは児童相談所に通報すべきなのでは』という意見が住人の間で出て来たようです」
オレがグルグルと考えを巡らせている間に、吾妻さんは話を展開させた。
「そこでやっとか、と思うかもしれませんが、やはり15年も前の事ですからね。今でこそ「確たる証拠がなくても疑いを持った時点で通報を」という流れが出来ていますが、昔はとても敷居が高かったでしょうし、普通に生きてきた人達がそういったアクションを起こすというのは、とても勇気がいったことと思います」
「……保育園の方では、何で通報していなかったんだろうね?」