幸せになるために
「泣き疲れておねむになるなんて、やっぱ子どもですよね」

「うん」


オレは思わずクスっと笑いながら、目の前の聖くんの前髪の辺りを、さわさわと優しく撫でた。

吾妻さんからお誕生日パーティーの提案をされた途端、みるみるうちに瞳が輝き出し、「わーいわーい」と嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねていた聖くんだったが、ほどなくしてその場にちょこん、と座り込んだ。


「あんしんしたら、ねむたくなってきちゃった…」

「あ、そうなんだ。じゃ、あそこでおねんねしようか?」


オレは慌てて聖くんの背中に左手を沿えて、右手でソファーを指差した。

やはり床に寝そべらせるのは、気分的に落ち着かない。

かといって聖くんをオレ達が運ぶ事はできないし、そして布団を敷いていては間に合わないと判断し、何とか自力でソファーまで行ってくれるよう促したのだ。

聖くんは言われた通り素直に、ちょっと覚束ない足取りでソファーまでテトテトと歩を進めると、「んしょ」と掛け声をかけながらよじ登り、身を横たえた後、無事にその場で眠りに就いた。

安堵のため息を吐きながら、吾妻さんとそっとソファーに近付き、二人でしばし、聖くんの天使のような可愛い無邪気な寝顔に見とれていたのだった。


「でも……多分今までも、ほとんどの時間寝てたんじゃないかと思うんだよね」


ふとその事に気が付いた。


「不動産屋さんいわく、ここって空き部屋の期間が多くあったみたいだし、そして誰かが住み始めたとしても、その人は聖くんには気付かないからつまらないし。あ、いや。何かがおかしいとは思うみたいだけど、コミュニケーションが取れるまでには至らないってのが正しいか」


一昨日までのオレが、ズバリそうだった。


「だから基本的に、普段は眠っていて、目が覚めたら気が済むまで遊んで、そして疲れたらまた夢の中へ…っていう繰り返しだったんじゃないのかな」

「そうかもしれませんね」


一旦言葉を切ってから、吾妻さんは続けた。


「15年間も、ここで一人でそうやって過ごして来たんですね」

「……うん」


ヤバい……。

またもや涙腺がユルユルと弛んで来てしまって……。


「でも、解決策が見つかりましたから」


オレの心情を読み取ったのか、吾妻さんは急いで話を明るい方向に変えた。
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