不器用なあいつ
紅茶を一口飲んで、刺繍セットを取り出す。
今回作っているのは真っ白いハンカチにワンポイントの刺繍をするというもの。
チクチクと作業を開始して、拓海なんて無視していようと思っていたのに。
「あ、バスケットボール」とミシンの向こうから刺繍を覗かれる。
縫い目があまりにも酷かったらしい、仕方がなくリッパーでゆっくりと糸を切っていっている。
こいつ、あたしに話しかけるなんて絶対飽きたんだ!
「結花ってバスケに興味ないよな。
誰かにあげんの?」
色のない声は何だか機嫌が悪そうな印象を与えられた。
「他の部員がみんな好きな人のために作ったりしてるから、唯一いなかったバスケにしただけ。
だから貰い手はいないよ」
「ふーん」
自分から訊いてきた癖に気のない返事。
大体バスケ部ってハンカチとか使うのかな。
なんか、タオルとか汗を拭いやすいものを使っているイメージなんだけど。
「何の感情もこもっていないとはいえ、みんなが大切にしているものだから、あたしもどうでもいい人にはあげられないし。
自分で使うかなー」
プスッと針を刺す感覚や、糸が布と擦れる音は何だか落ち着く。