不器用なあいつ
「痛っ」
顔を上げてみれば、あいつが指に針を刺したらしく小さく顔を歪めている。
「ちょっともう、何してるの。見せて?」
立ち上がり、あいつの元に近づきながらポケットから絆創膏を取り出した。
たまたまあってよかった、と差し出した手を掴みながら、拓海まで立ち上がる。
思わず後ずさると壁にトンッと背がぶつかった。
反射的に手を振り払い、右に行こうとすれば、あいつの左手。
左に行こうとすれば、あいつの右手。
拓海の胸や顔がひどく、近い。
あいつの大きいようで狭い空間に閉じこめられる。
「ちょ、怪我したんじゃないの?」
「誰もそんなこと言ってない。
結花が勝手にそう思っただけだろ」
なんだと。
じゃあのいて、なんて言っても拓海は動く気が皆無。
「なん、で、こんなこと……」
「結花が好きだからだろ」
「……え?」