高梨さんの日常
「…じゃあ、進路調査書配るぞー。これは高三になるに向けて重要なものだからなー。各自きっちり書くように!」
帰りのSHRで担任がそう言って、高二になってから二回目の進路調査書を配った。
進路か…。
北条はやっぱり家を継ぐんだろうか。
紙を天井にかざしながらそんなことを考えた。
「図書館行こうぜ」
SHRがいつの間にか終わってパラパラと帰り始める生徒を背景に、北条が言った。
「うん」
頷いてカバンに必要なものを入れて立ち上がった。
図書館までの廊下を北条の横を歩いて、何気ない会話をする。
「今日、また姉貴に弁当作れって言われてさー、あさ5時起きだよ、もう眠すぎ」
「シスコンだね」
「違うよ、あっちがブラコンなんだ」
それだけで、どんなに私の心が落ち着くか、北条はわかっているのだろうか。
ちらりと上を見ると、ぶーたれていてもなお整っている顔があってなんだか悔しくなる。
「綺麗な顔しやがって」
「え?なに?」
「なんでもない」
図書館までは長いようで短い。
そんな長さが自分にはちょうどいいと思った。