高梨さんの日常
「あ、井ノ上さん」
図書館に入ると、カウンターの前で井ノ上さんが本を持って待っていた。
「これ、返却おねがい」
「うん、りょーかい」
「…二人、仲良くなったの?」
私たちのやりとりを見て、北条がそう聞いてきた。
「うん、まあ」
「へぇ」
少し嬉しそうに笑う北条になんだか気恥ずかしくなる。
「じゃあ、私は今日はこれで。
北条くん、これからも応援してるから」
井ノ上さんは、そう言って今日は何も借りずに帰って行った。
「応援してるってさ」
言ってから横をみると顔を赤くした北条。
「あの、さ、もしかしてなんかいろいろきいてたりする?」
「え?とくに?」
「そっかそっかならいいや」
少し安堵してから北条はカウンターの裏に回ってそこにあるパイプ椅子に座った。
「最近仲良くなったんだよ」
「え?さっきの子?」
「そう。井ノ上さん。北条がいない火曜日に時間を潰しがてら一緒におしゃべりしてるの」
少し表情を伺うと、また少し焦ったような表情。
本当にコロコロ変わるんだな。
「へ、へえ、そうなんだ」
「なんかうしろめたいことでもあるの?」
「ち、ちがうよ……んー」
言葉を探すように宙をみる北条。