高梨さんの日常
「きっと、愛情が足りないんだよ」
日付が変わって、放課後。
お姉さんに相談するとそんなことを言われた。
「…愛情?」
それだけで味は変わるのかな。
「うん、私のはいつも不恰好だけど、味はすごい美味しいんだよ。これ、唯一の自慢」
だって、みんな美味しいって言って食べてくれるんだから。
そう続けるお姉さんは笑っていて、やっぱり可愛らしい。
「着いたよ、ここ。私の大学!」
高校から歩いて十数分。
大学は思っていたより広い。
「調理室はちょっと遠いんだけど」
途中でスーパーによって材料を揃えたから、二人とも両手には荷物。
お姉さんは私よりさらにたくさんの荷物を抱えていた。
二人でよろよろと大学の敷地の中を歩く。
時々、お姉さんに声がかけられて、それににこやかに対応している。
お姉さんと話した人はみんな笑顔になった。
「あ、ナツキ!」
またしてもかけられた声に、今度は硬直するお姉さん。
「や、やばい、ユウダイだ。走るよ!!」
そういうやいなや猛ダッシュ。
て!はや!!!!!
どうしよう、ついていけない…。
すぐにばててゼイゼイいう私とは反対に、お姉さんはどんどん走って行ってしまった。