高梨さんの日常
やばい、見失った。
お姉さんが行った方向に歩いて行くけど、どこも同じような気がしてならない。
これは、迷った。
両手の荷物に腕は悲鳴をあげつつあって、近くにあったベンチに座って休憩することにした。
落ち着いたら電話してみよう。
「きみ、大丈夫?」
ふと、上から声をかけられた。
見上げると、思ったより顔の位置が高くて、結構首が痛い。
男の人だ。
「大丈夫です…なんとか」
「そうか。きみ、さっき走って行った女と一緒にいたよね?」
「え、あ、はい。多分そうです…」
淡々と発せられる言葉に少し怖くなる。
「あ、ごめん。怖がらなくていい。こういう話し方なんだ。顔もこんなだからさ、よく怖がられるんだ」
私の心中を察したのか、そう言ってきた。
確かに、目つきが鋭くて、整った顔立ちだからか余計それが際立つ。
「あいつ…あの走って行った女ね、最近ずっと避けやがって、目も合わせないし、会ったらさっきみたいに逃げるし。なにしてるんだか」
「おねえさ…えっと、ナツキさんのお知り合い…彼氏さんですか? 」
「うんそう。まあでもこんなに避けられてちゃ破局間近かな」
自嘲的にそういった。
「…そんなこと、ないと思いますよ」
だって、お姉さん、今日あなたのためにお菓子を作るんですよ。
二人の関係はよくわからなかったから流石にそこまでは言えなかったけど。
「そうだといいけど。クリスマスにいじめすぎたからかな…」
「え、いじめ…?」
「ふふ、うん、そうだよ。ついつい可愛くてね。いじめたくなっちゃうんだ」
口ではそんなことを言っていたけど、顔からは目つきの鋭さが消えて、すごく優しく微笑んだ。
「大好きなんですね」
「うん」
こんな風に、優しく微笑まれたら、きっとお姉さんはメロメロになるに違いない。
北条は、私のことをこんな目で見てくれているのかな。
「じゃあ、次講義があるんだ。ナツキによろしく言っといて」
「はい、頑張ってください」
ヒラヒラと手を振って、その人は去っていった。