高梨さんの日常
「ただいま」
そう言ってもいつもの通り返事が返って来ることはなくて。
玄関にひとつ置かれたローファーをみて、軽く息を吐く。
自分の部屋に向かう途中、リビングを覗いて、テレビを見ながらソファに座る人影に、また、
「ただいま」
と言った。その人影は、振り返ることなく、
「ん」
と言ったきりテレビに釘付けだ。
気にしないことにして自分の部屋に向かった。
ボフンッ。
ベッドに倒れこむと途端に虚しさに押しつぶされそうになる。
何もやろうと思えない、何もできない自分。
部屋着に着替えて、またリビングに向かった。
「リン、ご飯食べた?」
そう聞くけれど返って来る言葉はなく。
シンクを見ると、一日の一人分の食器が溜まって置かれていたから、食べたんだなと理解して、食器を洗いつつ、夜ご飯の支度を始めた。
つくるのはもちろん一人前だけど。