君に恋していいですか?
婚姻届を出すのにひとりだと不安で仕方なかったから、咲さんに連絡してわざわざ付き合ってもらった。


終始ニコニコの咲さん。


「詩織ちゃんがお義姉さんかぁ。
…でも詩織ちゃんでいいよね!
あんな兄貴だけどよろしくねぇ。」


無事に受理されて晴れて祐太朗さんと夫婦になった。


それを報告するメールを書いていたら、咲さんがそう言ってケラケラ笑ってる。


「お義姉さんなんて言わないで。詩織でいいよ、咲さん。」


「だよね〜。なんかそんな呼び方したらむず痒いのよね!祐太朗のこともお兄ちゃんなんて呼んだことないし!」


サッパリした性格の咲さん。

本当にいい人。

大好き。


「咲さんは山本さんと結婚しないんですか?」


不意に疑問になって聞いたわたしに、咲さんはびっくりした顔をして振り向いた。


「琢磨と結婚⁉︎あり得ない!」


…あ、あり得ない?どうして?


「そんなことになったら、あたし仕事辞めなきゃならなくなるもん!それは嫌、ぜーったいに嫌!」


仕事が命な咲さんらしいといえばらしい。

でも。


「子供生んだりしたいとか思わないんですか?」


「あたし子供好きじゃないんだよね。それにさぁ…」


歩きながら話していた咲さんが足を止める。


「琢磨んち、お医者さん一家なんだよね。あたしみたいなのが嫁だなんて認めてもらえないよ。」


俯いた彼女は淋しそうに笑っていた。


「そんな!咲さんは素敵です、わたし大好きです!」


上手く言えない自分が歯痒かった。

「ありがと。詩織ちゃんってホント祐太朗にはもったいないくらいいい子だね。」


咲さんが笑う。


その笑顔は祐太朗さんに良く似ていて。


「でも、山本さんは咲さんと結婚を考えてるかもしれないじゃないですか。」


「考えてなんかないわよ。琢磨は最初の結婚で失敗したんだもん。あたしと結婚したって上手くいくとは限らないじゃん?」


バックをくるくる回して咲さんは歩き始めた。


本音は違う。


本当は山本さんと一緒になりたいんだ。

でも過去を気にして先に進めないんだ。


「詩織ちゃん!今日はおめでたい日なんだから御馳走にしようよ!」


わたしが何を言ったところで決めるのは二人だ。

わたしと祐太朗さんが結婚を決めたのと同じように。


「そうですね!山本さんや伊島くんや菊池さんも呼んで騒ぎましょうね!」


「よっしゃー‼︎飲むぞー‼︎」


ガッツポーズではしゃぐ咲さん。
少しでも楽しんで欲しいな。

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