君に恋していいですか?
それから一週間。

ほぼ毎日、三枝と田村と3人で打ち合わせばかりしている。


飲み込みの早い2人はある程度の指示をすれば、あとは自分達で結果を出す。


つい最近取り掛かっていたプロジェクトの一環で、広報が宣伝を打つ予定になっていたものを2人に任せ、広報課のメンバー5人で全てをやらせてみた。


支社長の感触も良くて、これなら俺が居なくても大丈夫だろう、とOKサインが出た。


それから少しして。
送別会をしたい、と広報課だけでなく営業課も交えての飲み会があった。

「神山部長!」


雑談をしながら酒を飲んでいたら、三枝が手招きする。


「なんだ?」


「指導有難うございました。
これ、広報から餞別です。」

紙袋に入った何かを手渡してくれる。

がっちりと握り合った手が離れ難くも感じてしまう。



この支社も、俺の居場所だ。


「俺も本社狙います。必ず神山さんの下で働いてみせます。」


三枝なら出来るかもしれない。


伊島と良く似た奴なら…。


「頑張れよ。わからないことがあれば何時でも構わないから電話してこい。」


そうしてこれから支社の広報課を背負う奴にエールを送る。



送別会は3時間程して解散になった。


居酒屋の出口で谷川の従兄弟の中崎が立っていた。


「神山さん。」


彼女の表情はどこか穏やかで。
この前、詩織に掴みかかった人物と同じ人に見えない。


「あたし、やっぱり諦めたくない。好きです。結婚しても、神山さんが好き。」


真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。

「悪い。中崎の気持ちに応えることは無いよ。」

淋しそうに笑う彼女は何故か綺麗に見えた。


「それでも。
新しく誰かを好きになれるまで、あたしは神山さんを好きで居たい。」

俯きぎゅっと両手を握りしめた彼女。


「へぇ、中崎さんって神山部長のこと好きなんだ。あたしもだよ。」


そう声がして振り向くと、田村がニコニコして立っていた。


「奥さんがいてもあたしはいいけどなー。ま、15も若い奥さんだからメロメロなのは見ててわかるけど。」


そう言うと俺に近づき、彼女は少しだけ背伸びをした。


触れたかどうかわからないくらいのキス。


ハッとして離れる。


「お前っ」

「好きなんだもの、仕方ないじゃない。たまには連絡くださいね。仕事以外でも。」

ポン、と胸を叩かれた。

通り過ぎて行く田村。

唖然と見ていた中崎は田村が通り過ぎる瞬間、彼女の顔を見て真っ赤になる。


「抜け駆けしないでよ!あたし我慢してるんだから‼︎田村さんだけズルい‼︎」


ツカツカと俺に歩み寄る中崎。

これは逃げた方がいい。


カバンを握りしめた俺は二人とは違う方向に一目散に走り出した。



中崎が何かを言っていたけど。



帰れる。



俺の本当の居場所に。


詩織の元に。



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