君に恋していいですか?
とりあえず、九州での仕事が終わった。


早かった筈の半年がやけに長く感じる。
もっとずっと居たような、そんな錯覚すら感じて…。

でも。


ようやく帰るんだ。


にやけそうになる顔を押さえながら飛行機に乗り込んだ。





空港で詩織の姿を探す。
迎えに来ると連絡があったからだ。
運転が出来ない詩織の代わりに咲が一緒に来る、と。

あいつはお邪魔虫。


そうやって探していたら、フワフワの長い…あれ?短い髪の詩織が居た。


「おかえりなさい!祐太朗さん‼︎」



背中を隠すほど長かった髪が肩より上、顎のラインで切りそろえられていた。


「祐太朗さん?」


驚いて声が出ない俺に詩織は首を傾げる 。


「あ、髪切ったから?変ですか?」


ふわん、と揺れる毛先。

くるんとカールしてて…めちゃくちゃ可愛い。


「驚いた…短い髪の詩織見たの初めてだからさ…」


恐る恐る髪に手をやる。

柔らかな感触は前と同じ。
暖かな、優しい、そんな彼女。


「ただいま、奥さん。」


抱きしめたら折れそうだった痩せた身体は少し元に戻っていた。


「おかえりなさい、祐太朗さん。待ってた…嬉しい…です。」


腕の中で呟く彼女の言葉。
気持ちは同じだったから。

「俺も嬉しいよ。帰ろうか。」


そう言うと、背後で呑気な声がした。


「またかー、またあたしは無視かー。」

お邪魔虫・咲だ。


「おぉ。今回も無視だ。」


詩織を抱きしめていた腕を解き、彼女の手を取る。


「詩織、今日からはずっと一緒だからな。」

そう告げると、彼女の大きな目に涙が溜まり始める。


「長かった…すっごく不安だったの…。」


わかってる。
その理由も。解決しなきゃならない問題も。


「バカ祐太朗、詩織ちゃん泣かしたらあたしが許さないわよ。」


近づいて来た咲が俺を見ながらそう言うと、背中を思いっきり引っ叩かれた。


「イテっ‼︎」


それにしても。

新鮮だな、この髪型。

「俺が初めて会った時は既に長かったよな?」

「うん、そうだったと思う。
…っていうか、わたし、自分の記憶ある中で髪が短いのって今回が初めてなんです。」

そう照れ臭そうに言う詩織。

なんて可愛いんだ。

抱き寄せてキスしたい。


「でも、心境の変化か?短くした理由。」


違うんじゃないかと疑っていたから。

ニコニコ聞きながらも答えが気になる。


「うん、何となくなんだけどね。
あ、理由あると思ってた?」


「ああ、もしかしたらまた何かあったんじゃないかと心配だった。」


…真面目な顔になると詩織はため息をついた。


「菊池さんと伊島くんから聞いたのね。」

当たり前だ。
お前が被害に会う必要なんてないことなんだから。


「詩織」


頬に触れ柔らかなその髪をなでる。

「俺がやってきたことで、お前が嫌な思いをすることはないんだ。
全部俺が悪いんだから。ちゃんとけじめはつけるから。」


まともな恋愛をしてこなかった自分の罪だ。


「もういいのよ。祐太朗さんの罪はわたしの罪でもあるの。
それが夫婦でしょ?

…いいことも悪いことも全部共有していきたいの。」


素直に頷けない自分に優しく諭すように話しかけてくる詩織。


15歳も年下の彼女の懐の広さに感服する。


「でも許せないんだ。俺に文句を言えばいいのに詩織に向かっていくなんて、納得できないから」
「わたしが祐太朗さんをみんなから奪ったの。だから仕方ないことなの。」



言葉を塞がれて、そう言われてしまえば。

お手上げだ。

俺の負け、だな。


「わかった。もう嫌がらせされたりしてないか?」

にっこりと笑い、頷く。

「菊池さんの脅しが効いたみたい。」


…あいつ、的に回したら怖そうだな。


「落ち着いてから退社することも考えろよ?」

「はい。」


子供ができたら間違いなく辞めさせるけど。



…それまではまた同じ場所で働きたい。
そう言っていた詩織の気持ちを尊重してやりたいから。


「さぁ、帰ろうか。」


「あたしは運転手かー、なんかお土産でもないのかー。」


背後で呟く咲の言葉に詩織と吹き出しながら、空港を後にした。

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